認知症の治療方法は残念ながら確立していませんが、どういった活動をおこなえば認知機能の低下を予防できるかについては少しずつ分かってきています。早めの生活習慣改善などの対策や、症状の進行を遅らせることが重要です。
※この記事内での認知症予防とは、認知機能低下防止および認知症のリスク低減に有効と一般的に言われているトレーニングの紹介や、認知症の早期発見・早期治療、進行抑制までを含んでいます。
目次
最近の研究から、トレーニング(運動)やゲーム(知的活動)が認知症の予防に有効であることが明らかになっています。
運動は大きく分けて、有酸素運動と無酸素運動に分けられます。有酸素運動とは長時間継続しておこなう運動を指し、ウォーキング・ジョギング・サイクリング・ヨガ・水泳などが含まれます。一方で、無酸素運動は短い時間で強い力を発揮する運動を指し、相撲・筋力トレーニング・短距離走などが含まれます。有酸素運動も無酸素運動も認知症の予防に効果があることがわかっています。
知的活動とは、記憶力、言語能力、判断力、計算力などの認知機能を使用する活動のことです。例えば、日記を書く、絵を描く、間違い探しなど一人でおこなう知的活動もあれば、トランプの神経衰弱、連想ゲーム、しりとりなど複数名でおこなう知的活動もあります。知的活動は、考えたり手指を使ったりして、脳の機能を使う場面が多いので、認知症の予防につながるとされています。
有酸素運動では、運動している時に酸素を使い、体の中の糖質や脂質をエネルギー源にして筋肉を動かします。
そのため、認知症の予防だけでなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の予防にも繋がります。
有酸素運動をおこなう時は、軽く息があがる程度の運動をするように心がけましょう。週に1回激しい運動をするよりも、10分以上の運動を毎日続けることが大切です。まずは、無理のない範囲で週に数回おこない、運動する習慣をつけていきましょう。
有酸素運動の代表的な例としてウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、ヨガなどがあげられます。無理なく、楽しんで続けられる運動から始めてみましょう。
筋力トレーニングをすれば、脳内の神経組織を活性化させることができます。体に力を入れることで、筋肉が伸び縮みする感覚や痛みの感覚が脳に伝わります。脳への血液の循環も高まり、脳の働きが活性化し、認知症の予防に繋がるのです。
また、筋肉の量が増え、体を支える力が強くなるので、転倒のリスクを低減できます。転倒によって骨折し寝たきりになってしまうと、活動性が低下し認知症の発症リスクが上がります。転倒予防のためにも、筋肉量を維持・向上させることは大切です。
なお、筋力トレーニングをおこなう際は、急に強い負荷をかけると膝や腰を痛めてしまう可能性があるので注意が必要です。最初は1日数回のトレーニングでよいので、慣れてきたら徐々に回数を増やし無理なく続けるようにしましょう。
おすすめの筋力トレーニングは、スクワットやモンキーウォーク、踏み台昇降運動です。それぞれの筋力トレーニングのやり方や注意点を説明します。
スクワットは、下半身や体幹を鍛えられるトレーニングです。
スクワットのやり方
スクワットの注意点
モンキーウォークは、名前のとおり猿の歩き方をマネしたトレーニングです。膝を曲げて腰を落として歩くので、太ももを中心に下半身を鍛えられます。
モンキーウォークのやり方
モンキーウォークの注意点
踏み台昇降運動は、台を使って段差を昇ったり降りたりするトレーニングです。下半身の筋力が鍛えられるだけでなく、昇り降りの際に片足立ちになるため、バランス能力の向上も期待できます。
踏み台昇降運動のやり方
踏み台昇降運動の注意点
脳トレゲームは、認知症予防に効果的であることが広く知られており、 書店では 脳トレ用の計算問題や漢字問題、間違い探し、各種クイズなどがまとめられたドリルも販売されています。
また、近年はスマートフォンのアプリやウェブ上でおこなえる脳トレゲームも増えており、無料で楽しむこともできます。楽しく続けられるよう、自分に合った脳トレゲームを探してみてください。
パズルにもいくつかの種類があり、1人でできるジグソーパズルやクロスワードパズルのようなものから、2人以上でできるジェンガや将棋崩し、立体パズルなどがあります。パズルは、判断力や空間認知力、作業記憶などの脳の能力が養われるので、認知症予防になると考えられています。
折り紙やあやとり、お手玉、けん玉などの手遊びも認知症の予防になると考えられています。他にも、手遊びの例としてグーパー体操や指折り体操などがあります。
グーパー体操は、じゃんけんの「グー」と「パー」を使って、リズム良く手を動かす体操です。両手をグーとパー交互に動かすだけでなく、パーにした手は前に出す、歌を歌いながらやるなど、さまざまなルールを作って体操をおこなえば、考えながら手を動かすので、より脳の活性化ができ認知症の予防につながります。
指折り体操は、手を開いた状態から親指、人差し指、中指、薬指、小指と順番に指を曲げていく体操です。片手だけではなく、両手の指を同時に曲げたり、小指から曲げていったりするなど、さまざまなやり方で手を動かし脳に刺激を与えることができます。
歌や音楽を活用するレクリエーションは、脳の活性化に繋がり認知症の予防効果があると考えられています。例えばカラオケやダンス、合唱、楽器の演奏などが挙げられます。
グループで、曲の冒頭部だけを流して曲名を当てるイントロクイズをしたり、歌いながらボールを隣の人に渡したりするようなレクリエーションもよいとされています。イントロクイズなどで、昔流行していた歌を思い出すことは、眠っていた記憶を呼び起こすことになるので、さらに認知症の予防になるといわれています。
コグニサイズとは、認知症予防のために国立長寿医療研究センターが開発した運動と知的活動を組み合わせた新しい運動方法です。コグニサイズの名前の由来は、英語のcognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)となっています。
最近の研究では、脳に刺激を与えながら運動をおこなうと、より認知症の予防になると報告されています。ここでは、代表的なコグニサイズの種類をご紹介します。
コグニウォークは、歩くことと知的活動を組み合わせたウォーキングです。具体的には、しりとりや100から3を引き算していく計算、川柳の読み合いなどをしながら歩くなどで、単なる運動ではなく頭も使います。運動の効果を高めるためには、上半身を起こしてしっかりと腕を振りながら歩くと良いです。
コグニステップは、椅子に座って1で片足を横に出す、2で出した足をもとに戻す、3でもう片足を横に出す、4で出した足をもとに戻す、を1セットとして、数を数えながらリズム良く繰り返しおこなう運動です。知的活動と組み合わせるためにも、数字の3の倍数のときに手を叩く、5の倍数のときに頭を触るなどのルールをつけてみましょう。できる方は立っておこなうことで、より運動効果を高められます。
コグニダンスは、ダンスをしながら運動機能の向上や知的活動をおこないます。一般的な社交ダンスと大きく動きは変わりませんが、踊りながら数を数えたり、手の動きやステップを覚えたり、音楽に合わせておこなうことで脳の活性化につながります。また、踊ることで心肺機能の向上や筋力の衰えを防ぐことができます。
トレーニングやゲームは、継続することで認知症の予防が期待できます。そのためには、普段の生活の中で自然におこなえるように習慣化していくことが大切です。
トレーニングやゲームを習慣化する3つのポイントを紹介します。
習慣化するためには、自分が興味をもてるものや、楽しいと感じるものを取り入れるようにしましょう。例えば、自然が豊かな場所が好きなのであれば、近所で緑豊かな公園を探してウォーキングを始めてみるとよいかもしれません。歌うことが好きなのであれば、歌いながらトレーニングをしてみるのもよいです。
また、体にとってつらすぎるトレーニングや難しすぎるゲームは、ストレスを感じてしまい、習慣化できない可能性が高いので 、選ぶ場合は事前にしっかりと検討しましょう。例えば、認知症予防のために取り組むトレーニングは、最初から負荷の大きいものにしてしまうと、つらくて長続きしないだけでなく、膝や腰を痛める原因になります。また、ゲームやパズルは、正解することよりも解く過程で考えることが大切なため、適度な難易度のものを選びましょう。
そして興味関心のあるトレーニングやゲームは、心身ともに集中できる時間や環境でおこなうことが大切です。だらだらと長くやるより、集中して楽しんだほうが習慣化できます。朝起きた時、午前中など、自分が集中できる時間や環境を見つけるようにしましょう。
今回は、認知症の予防につながるトレーニングやゲームをご紹介しました。どのトレーニングやゲームも継続しておこなうことが大切です。そのため、最初から無理な回数や時間をかけておこなわず、慣れるまでは10回だけ、2セットだけなど少ない回数かつ短時間で取り組むようにしましょう。慣れてきたら回数や時間を伸ばしてより運動効果を高めていくことをおすすめします。
トレーニングやゲームが認知症の予防になるとはいえ、「一人で続けるのは難しい」「他の方と交流しながら楽しみたい」と思っている方もいるでしょう。
そのような場合には、まず介護予防サービスやデイサービスを利用してみるのがいいでしょう。また、すでに認知症と診断されている場合は、グループホームに入居するという手段もあります。
例えば、SOMPOケアが提供するグループホームでは、専門性の高いスタッフのもと他の入居者との共同生活を通じて刺激を受けながら、お一人おひとりに適した運動や知的活動をおこなうことができます。ご自宅での生活で継続が難しい場合はグループホームも検討してみてください。
お電話から:0120-37-1865(フリーダイヤル)
【経歴】
都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカ在住。育児のかたわら、医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作のほか、認知症の患者さんの診療経験を活かし、認知症に関する記事執筆や監修、最新の医学論文の翻訳なども行っています。認知症患者さんと介護者の方の負担が、少しでも軽くなるようにお役に立てればと考えています。
【保有資格】
医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医
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