認知症ケアとは?必要性とケアでおこなうこと・大切なことを解説

​​ご家族が認知症になった場合、どのようなケアが必要で、どのような点に注意をしたら良いのでしょうか。

認知症ケアを実践するうえで重要なのは、認知症の症状を理解し、認知症のある方の言葉や行動に適切に対応することです。
この記事では、認知症ケアの概要を説明するとともに、認知症ケアを実践するうえで大切なことや注意点を解説します。

1.認知症ケアとは?

認知症ケアとは、認知症のある方の尊厳を守りながら、その人らしく安心して生活を送れるように支援する考え方を指します。

厚生労働省は、「認知症ケアの基本的考え方」において、認知症ケアの基本として次の4つを挙げています。

  1. 身体のケアと心のケア

    生活や行動全般が対象、本人のペースに合わせた対応、一定の生活リズム

  2. 関係性の重視

    なじみの人間関係、なじみの居住空間

  3. 継続性と専門性の重要性

    状態変化に対応した専門的ケア(医療との適時・適切な連携)

  4. 権利擁護の必要性

    高齢者本人の意思の代弁

これら4つをもとにケアを実施し、認知症のある方の尊厳を保持しながら適切な介護保険サービスの利用につなげていくことが重要です。具体的な対応方法については後述します。

認知症について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

認知症ケアの理念「パーソン・センタード・ケア」とは?

認知症ケアの理念の一つとして「パーソン・センタード・ケア」という考え方があります。

この理念は、イギリスの心理学者であるトム・キットウッド氏によって提唱されたもので、認知症のある方が地域社会や人々との関わりを持つ「個人」として尊重され、それをご本人が実感できるようなケアの実践を目指すものです。

パーソン・センタード・ケアでは、次のような視点を重視しています。

  • ひとくくりにしない、一人ひとりをかけがえのない存在としてとらえる
  • 「認知症患者」ではなく、完全な人間としてとらえる
  • 仲間がいること、そしてふれあいがあることが大切
  • 居心地の良い場所を作る
  • その人に合ったケアを計画する ほか

2.認知症ケアの必要性

認知症ケアの実践は、ご本人の尊厳を保持するだけでなく、生活の質的向上を図るうえで有効な手段です。

認知症ケアを行ううえで最も重要なのは、認知症を知ることです。なぜなら、認知症の症状や特徴を理解しないままでは、適切な対応ができないからです。十分な理解がないなかで誤った対応(ご本人の言動を抑制したり咎めたりするなど)を取れば、ご本人はさらに混乱し、精神的なストレスになってしまう恐れがあります。

認知症に関して理解を深めることは、対応するご家族にとっても次のような点で有効です。

  • ご本人がどうしてそのような行動を取っているのかを理解できる。
  • ご本人がどのようなことに困っているのかを知ることに繋がる。
  • 対応する際の精神的負担を軽減できる。

適切な認知症ケアを実践して、少しでもご本人が心穏やかに過ごすことと、ご家族の身体的・精神的負担の軽減を図ることを目指しましょう。

3.認知症ケアの実践「ユマニチュード®︎」とは

認知症ケアの一つの方法として注目を集めているのが、「ユマニチュード®︎」です。「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語で、フランスの2人の体育学専門家らが開発した技法です。

ユマニチュードは4つの柱と5つのステップから成り立っており、認知症のある方との関係性に着目したケアの実践例といえます。具体的な内容は次のとおりです。

種類 項目 内容
4つの柱 見る技術 認知症のある方と関わる際に同じ目線にして「平等な存在であること」、近くから見ることで「親しい関係であること」、正面から見て「相手に対して正直であること」を伝える技術
話す技術 認知症のある方にとって、適度な声の大きさ・低い声で話す技術。低めの声は「安定した関係」を、大きすぎない声は「穏やかな状況」を、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を実現できる。
触れる技術 認知症のある方に触れることも相手へのメッセージであるという考え方。「広い面積で触れる」、「つかまない」、「ゆっくりと手を動かす」などによって、大切な存在であることを伝える。
立つ技術 人間は直立する動物で、立つことによって体のさまざまな生理機能が十分に働くようにできているという考え方。少しでも立つ時間があれば、人間らしさを保つことに繋がる。
5つのステップ 出会いの準備 認知症のある方と関わる前段階として来訪の旨を伝えておき、相手の領域に入って良いと許可を得るステップ。
ケアの準備 実際に支援を行う場面において認知症の方からケアの合意を得るステップ。
知覚の連結 相手の認知状態、身体機能などを把握しておき、その人に合った適切な支援を行うステップ。
感情の固定 支援が終わった後に、支援する側・される側がともに良い時間を過ごしたことを振り返るステップ。
再会の約束 次のケアを受け入れてもらうための準備を行うステップ。

4.認知症ケアで行うこと

ここからは、認知症ケアにおける具体的な実践方法をご紹介します。

日常生活の見守り

認知症高齢者の多くは、記憶障害が進行することによって不安や焦燥感に駆られ、結果として行動障害(徘徊など)を起こすことがあります。こうした行動だけに目を向けるのではなく、日常生活全体を見守り、観察して、ご本人の置かれている精神状況を理解するように心がけてケアをすることが大切です。

体調の管理

認知症のある方のなかには、心身の不調を言葉で伝えることや、自身の健康・体調を十分に管理することが難しい方もいます。ご本人の認知機能の状態にもよりますが、体調管理はご本人任せにするのではなく、支援する側もしっかりサポートしたほうが良いでしょう。

体調を管理・把握するうえで大切になるのは、食事・水分の摂取状況、排泄の状況、顔色や皮膚の状態観察、服薬管理です。記録を取り、適切に体調管理しましょう。

スキンシップをとる

認知症のある方と関わる際には、スキンシップをとるのも良いでしょう。なぜなら、適度に体に触れることが、相手に「あなたを大切に思っている」「あなたを信頼している」というメッセージを送る一つの手段となるからです。

過度なスキンシップは禁物ですが、コミュニケーションを取りながら、肩や背中を優しくさすって相手の反応を見ることから始めましょう。そして、温かい言葉かけとともに、次第に腕や手、顔などに触れるようにしていきましょう。

ただし、スキンシップが苦手という方もおり、認知症ケアでスキンシップが必ずしも有効というわけではないことも理解しておきましょう。

リハビリテーション

認知症ケアにおけるリハビリテーションには、認知症の進行を遅らせたり生活の質を向上させたりする効果があると言われています。具体的には次のような内容です。

種類 内容
作業療法 食事、入浴、家事などの日常生活に関連した作業を行うことで心身の機能の維持や強化を図る。
運動療法 身体を動かすことで、認知機能の改善や運動機能の維持を図る。ストレッチや関節可動域訓練など。

上記のリハビリテーションは、あくまで一例です。実際に専門的なリハビリテーションが必要な場合には、担当の介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)に相談して介護保険によるサービス(訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなど)の利用を検討してください。

安心できる環境づくり

認知症のある方のなかには、日々ストレスや不安を感じている方も多いため、安心して過ごせる環境づくりがとても重要です。

安心できる環境づくりとしてできることには、次のようなものがあります。

  • 介護保険の住宅改修を利用して屋内外の段差を減らす
  • 介護保険の福祉用具貸与を利用して転倒や怪我の危険を減らす
  • ご本人の認知機能に合わせてトイレや寝室の場所に文字や図を貼る

ただし、認知症のある方は環境の変化に適応することが難しいとされているため、居住環境を急激に変化させると、かえって症状を悪化させてしまう(認知症が進行する)恐れがあります。ご本人に悪影響が出ないように、状況を見ながら適切なペースで環境を整備しましょう。

5.認知症ケアにおいて大切なこと

認知症ケア実践の元となる大切な考え方や行動について解説します。前述したユマニチュード®の考えや手法と重なる部分もありますので、併せてご覧ください。

相手のペースを守る

認知症のある方のペースを尊重して、認知機能や身体機能に合わせた支援を行うことが大切です。介護するご家族としては、どうしてもご本人のペースに合わせられない場面もたくさんあると思いますが、できるだけ無理強いをせず、ご本人のペースに合わせてともに行動するよう心がけましょう。

プライドや尊厳を守る

認知症のある方のプライドや尊厳を守ることは、認知症の進行防止や精神的な安定、生活の質的向上の観点から有効です。例えば、幼稚な言葉で話しかけない、認知症になってもできることはあるため自身でできることはやってもらうなど、認知症の方のプライバシーを守り、支援をするなかで、彼らの想いや気持ちを理解し、一人の人間として尊重しながら接すると良いでしょう。

失敗しても責めない

トイレの失敗など、認知症のある方が日常生活のなかで何かを失敗したとしても、それを責めたり叱ったりしないようにしましょう。なぜなら、認知症の方からすれば「責められた」「叱られた」という負の感情が残ってしまい、混乱や興奮、精神的な落ち込みに繋がってしまうからです。「失敗=あるがまま」と受け入れ、他に解決方法がないかケアマネジャーに相談してみましょう。

わかりやすく話す

認知症のある方が混乱しないよう、専門用語や難しい言葉は使わないようにしましょう。また、相手にとってわかりやすい言葉を選ぶことや、簡潔に話をまとめること、話すスピードを相手に合わせるなどの工夫も有効です。そのうえで、表情を見たり質問をしたりする時は一度に聞くのではなく、一つひとつ順を追って聞くなど、相手の理解度を確認し、コミュニケーションを取ると良いでしょう。

相手を理解する・共感する

認知症のある方が発する言葉や感情に関心を向け、それに対して共感する言葉をかけ、相手を理解する姿勢を取りましょう。

    【コミュニケーション例】

    認知症のある方:「昨日の晩、息子のことを考えていて、よく眠れなかった」
    ご家族:「息子のことが気になって眠れなかったのね、大変だったね。息子は今どうしてるだろう、心配だね」

ご本人の発した言葉や感情を共感的に受け止めてあげることで、精神的に落ち着き、興奮や混乱を防げるはずです。

6.認知症ケアを行う際のポイント

最後に、認知症ケアを行ううえで、ご家族として意識すべきことをご紹介します。

専門家を活用する

認知症は誰もが発症するリスクを抱えています。専門家の力を借りて支援してもらうことは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、認知症のある方に対して有効な支援を行うという観点から、介護・福祉分野の専門家の活用は大切です。認知症が重度化しているかどうかにかかわらず、早めに支援機関などに相談し、支援制度や専門職によるサポートを活用しましょう。

高齢者の介護問題を専門に扱う支援機関としては、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターがあります。なかでも地域包括支援センターには、保健師・社会福祉士・ケアマネジャーが常駐しており、介護に関する相談に応じてくれるだけでなく、必要な介護サービスへと繋いでくれます。認知症のある方の介護に悩む人にとって、とても心強い相談機関です。

自分だけで抱え込まない

認知症ケアを実践したとしても、ご家族だけで認知症のある方の面倒を見続けると、ご本人、そしてご家族に負担がかかりすぎてしまう場合もあります。なるべく一人で抱え込まずに、ご家族や友人、地域の民生委員や地域包括支援センターに相談しましょう。また、認知症カフェやサロンに参加するなどして認知症支援に関する情報を得て、適切な介護サービスを利用することも重要です。

自分の時間をつくる

介護保険制度における在宅サービス(訪問介護、通所介護、短期入所生活介護など)をうまく利用し、時には認知症の方との適切な距離を取って、自分の時間も作るようにしましょう。その時間を使って日頃の疲れを癒やしたり、心身をリフレッシュさせたりしましょう。

絶対に避けたいのは、一人で抱え込んでしまうことです。なぜなら、認知症のある方の介護が長期化すると、ご本人とそれを支えるご家族に負荷がかかりすぎて、ご本人とご家族が望む生活を続けられなくなってしまう可能性もあるからです。ご本人だけでなく、介護をしている自分の体調や疲れも気にかけるようにしましょう。

7.認知症ケアは一人で抱え込まないことが大切

認知症ケアは、認知症のある方の生活を支え、その人らしく生活できるように支援する手法ですが、それを支えるご家族にとっては大きな負担となる場合もあります。そのため、一人で抱え込まず、ご家族や友人、地域包括支援センターなどの周囲の人に助けを求めることが大切です。ぜひ下記の記事を参考に早めに対応しましょう。

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SOMPOケアは、自宅で生活する要介護高齢者を対象に在宅サービスを提供しています。また、運営する介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)やグループホームは、認知症ケアの対応ができるスタッフがお一人おひとりに適した介護サービスを提供し、認知症の方でも安心してお過ごしいただける環境となっています。

加えて、SOMPOケアでは、認知症のご相談を受け付ける「認知症サポートダイヤル」も設けています。認知症のご不安やお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

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監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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