【医師監修】認知症予防は生活習慣から|認知症のリスク要因と今日からできる予防習慣

現在、認知症の治療法は残念ながら確立されてはいません。しかし、認知症を予防するために普段からどうするとよいのか?ということは少しずつ分かってきています。

この記事では、認知症の発症につながるリスク、予防が期待できる生活習慣などについてお伝えします。認知症の予防について知識を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。

※この記事内での認知症予防とは、認知機能低下防止および認知症のリスク低減に有効と一般的に言われている対策の事例紹介や、認知症の早期発見・早期治療、進行抑制までを含んでいます。

1.認知症予防は普段の生活習慣から

ひと言で認知症といっても、症状や原因、病変部位の違いなどによっていくつかの種類があります。

例えば、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの種類に分けられます。 認知症のなかでも大部分を占めているのが、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症で、日ごろの生活習慣(食事、運動、睡眠、喫煙など)と関連があることが明らかになっています。

認知症の種類や各認知症の特徴については、下記の記事で詳しく説明しています。

現時点で開発されている認知症に対する治療薬では、残念ながら認知症を治すことはできません。今ある治療薬は、認知症の進行をゆるやかにする効果を期待するものです。そのため、できる限り認知症を予防するために、日ごろから生活習慣に気をつける必要があります。

2.認知症発症につながる主なリスク要因

認知症は、生活習慣病にかかることで発症のリスクにつながることがわかっています。ここでは主なリスク要因について解説します。

高血圧

高血圧になると、血管が脆くなり動脈硬化を引き起こしやすくなります。脳動脈が高血圧の影響を受けると、ラクナ梗塞という脳の深部の極めて細い血管がつまる脳梗塞になる可能性が高いです。その結果、脳神経の活動機能が低下し、認知症を発症してしまうリスクが高まります。

糖尿病

糖尿病を発症すると、血液中のブドウ糖が過剰に増えて血糖値が高くなります。血糖値が高い状態が続くと、全身の血管の血流が悪くなり、脳内の血管がつまりやすくなってしまいます。脳内の血管がつまると、脳の神経細胞に十分な血液が行き届かなくなる障害を引き起こし、認知症になるリスクが高まります。

脂質異常症

脂質異常症は、動脈硬化を引き起こすリスク要因です。動脈硬化が起きると、脳の血管の硬化が進み、正常時よりも血液の流れが悪くなってしまいます。脳の血液循環が悪くなると、神経細胞へ血液が十分行き届かなくなり、認知症の発症につながります。

喫煙

喫煙が原因で認知症を発症することもあります。タバコを吸うと、強い酸化ストレスが生じます。酸化ストレスとは、酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用のことです。酸化ストレスは、インスリンの抵抗性を高めて動脈硬化を引き起こす要因となります。動脈硬化によって脳血管障害が起き、認知症の発症へとつながってしまいます。

この他にも、抑うつ、運動不足、社会的孤立、肥満など、認知症のリスク要因にはさまざまなものがありますが、ほとんどのリスクは生活習慣の改善が予防につながるものです。次に、認知症の予防が期待できる生活習慣をご紹介しますので、リスクを抑えるためにも参考にしてください。

3.認知症の予防が期待できる5つの生活習慣

前述したように、認知症を予防するためには普段から生活習慣を見直し、気をつけることが大切です。ここからは、認知症の予防が期待できる生活習慣について5つご紹介します。

食習慣

夜遅い時間の暴飲暴食、揚げ物ばかりを食べる、野菜や海藻類を食べないなどの悪い食習慣は、認知症だけでなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病発症のリスクに繋がります。
認知症予防を期待できる食習慣は、

  • バランスのよい食事を摂る
  • 食べすぎに注意する
  • 塩分を制限する
  • 間食を控え糖分を制限する

が基本となります。それぞれ気をつけるべき食習慣のポイントを確認していきましょう。

バランスのよい食事を摂る

バランスのよい食事とは、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなどの栄養バランスがとれた食事のことです。なかでも、特にタンパク質は意識して摂取するようにしましょう。

タンパク質は、肉や魚、豆腐などの大豆製品に含まれています。肉を好んで食べる人は、バランスよく栄養を摂るために魚や豆腐を積極的に食べるように心がけましょう。

魚には、脳に必要な栄養素であるDHAやEPAといったオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。オメガ3脂肪酸は脳の機能を高めてくれるため、認知症を予防できるとされています。

高齢者が1日に必要なタンパク質の目安は、1.0〜1.2g×体重と言われています。例えば、体重が50kgの方であれば50〜60gです。高齢になるにつれ、噛む力が衰え肉類の摂取量が減ったり、消化吸収の力が弱まり体内に栄養を取り入れづらくなったりして、タンパク質不足を引き起こしがちになります。そのため、栄養バランスを意識して、食事を摂るようにしましょう。

食べすぎに注意する

栄養バランスを考え、しっかりと食事をとることは大切ですが、食べすぎには注意が必要です。年を重ねるとともに運動量が減って代謝も落ちてくるので、必要とする摂取カロリーが少なくなります。

必要な摂取カロリー以上の食事をとることは肥満につながります。英国のユニバーシティ カレッジ ロンドン(UCL)の研究では、肥満の方は他の方と比べ、認知症を発症するリスクが3割以上増加すると発表されています。

具体的に、1日に必要な摂取カロリーは下記の表を参考にしてください。

性別 男性 女性
身体活動レベル
65~74歳 2,050 2,400 2,750 1,550 1,850 2,100
75歳以上 1,800 2,100 1,400 1,650

身体活動レベルⅠの方は、ほとんど外出しない方、基本的に座りっぱなしで静的な活動が中心の方。Ⅱの方は、座位中心の生活だが、買い物や家事、軽い運動をする方。Ⅲの方は、立位中心の生活で、活発的な運動習慣を持っている方、がそれぞれ該当します。ご自分の身体活動レベルを踏まえて、必要な摂取カロリー以上の食事をとるのは控えるようにしましょう。

塩分を制限する

塩分の摂りすぎは高血圧の原因になり、動脈硬化を促進し、脳血管性認知症を引き起こす可能性があります。塩や醤油のつけすぎに注意し、漬物やみそ汁の食べ過ぎにも気を付けましょう。

麺類を食べるとき汁を全部飲んでしまう方は、塩分を摂りすぎている可能性が高いです。また、塩分の摂りすぎを控えるだけでなく、体の余分な塩分を排出するはたらきのある野菜や果物、海藻類を意識して食べるとよいでしょう。

成人の食塩摂取目標量は、1日あたり男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。高齢者になると、高血圧でなくとも腎機能が弱ってくるので、男性も女性もより少なめの6.0g程度が理想です。

具体的に、料理ごとに含まれている塩分の目安を表にまとめましたので、参考にしてください。

料理名 塩分量
ご飯類 カレーライス 3.5g
チャーハン 3.6g
丼もの かつ丼 3.7g
親子丼 3.6g
めん類 かけうどん 7g
中華そば 7.7g
インスタントカップ麺 5.3g
パン類 食パン 0.8g
あんぱん 0.7g

※すべて1食分に含まれる塩分量です。

また、料理に使用している調味料にも塩分は含まれています。それぞれの塩分量について、下記の表で確認しておきましょう。

調味料 塩分量
こいくちしょうゆ 2.2g
うすくちしょうゆ 2.4g
めんつゆ(3倍濃縮) 1.5g
マヨネーズ 0.3g
ケチャップ 0.5g
ノンオイル和風ドレッシング 1.1g

※調味料は大さじ1杯(約15g)あたりの塩分量です。

間食を控え糖分を制限する

糖分を摂りすぎると、血糖値があがってしまいます。長い間血糖値があがった状態が続くと脳の神経細胞を傷つけてしまうため、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の発症を引き起こす可能性があります。普段の食事で気をつけることはもちろん、間食をして炭水化物や甘いお菓子などを食べ過ぎると、糖分の摂りすぎになってしまうので注意が必要です。野菜やキノコ類、海藻類などから食物繊維をたくさん摂るようにすると、血糖値の上昇を抑えられることがわかっていますので、意識的に摂取するようにしましょう。

また、血糖値をあげないためには、食事のときに食べる順番も大切です。実際に、城西大学が出しているデータによると、最初にサラダを食べてご飯を食べた方よりも、ご飯を先に食べてからサラダを食べた方の方が、食後の血糖値の上昇が早いことがわかっています。

運動習慣

適度な運動習慣は、認知症の予防になることが今までの研究から明らかになっています。特に体を動かすときのエネルギーに酸素を利用する有酸素運動が認知症予防によいと考えられています。

具体的な有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、エアロバイク、水泳などが挙げられます。また、無酸素運動である筋力トレーニングも認知症の予防に繋がることがわかっているため、有酸素運動と合わせておこなうとよいでしょう。

毎日10分以上の運動をおこない、運動習慣を身につけることが大切です。運動はなかなか始めづらいと考える人もいるかもしれませんが「いつもより早く起きて1駅分歩く」ことでも運動になるので、できることから始めてみましょう。

認知症予防につながる運動習慣やトレーニングについては、以下の記事でも詳しく説明しています。

対人コミュニケーション

人とコミュニケーションをとることによって、脳の活性化が促され認知症予防を期待できるといわれています。

最近では一人暮らしの方も多く、誰とも話さずに1日過ごす人もいらっしゃるのではないでしょうか。

電話やインターネットを使った会話でもよいですし、地域の交流会やボランティア活動へ参加して人と話すのも、脳にとってよい刺激となります。

知的活動

知的活動が認知機能予防になることが、今までの研究で報告されています。知的活動には、パズルやゲーム、楽器演奏、学習などが挙げられます。

また、農作業や料理なども、手先と頭を同時に使うため認知症予防によいと考えられています。その他にも日記を書く、絵本を読む、絵を描くなども知的活動です。

認知症の予防のためにも、無理なく楽しく続けられる知的活動を見つけられるとよいでしょう。

睡眠習慣

十分な睡眠や昼寝が、認知症の予防に繋がることが研究で明らかになっています。 脳の中に不要な老廃物がたまってしまうと、認知症の原因になることがあります。十分な睡眠をとることで寝ている間に脳の中の不要な老廃物が排出され、認知症の予防効果を期待できると考えられています。 しかし、ただ寝ればよいというわけではなく、質のよい睡眠をとることが大切です。どのような睡眠が質のよい睡眠とされるのか、厚生労働省の「睡眠の質の評価指標」をもとにお伝えします。適切な睡眠時間は個人差があるものの、以下に当てはまっていれば、質のよい睡眠がとれているといえるでしょう。

  • 日中に過度の眠気や意図しない居眠りがない
  • 寝起きが良好で、目が覚めてからすぐに動くことができる
  • 寝床についてから入眠するまで時間がかかりすぎていない

質のよい睡眠をとるためにも、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用、テレビの視聴は控えるようにしましょう。また、昼寝も認知症の予防効果があると考えられていますが、夜の睡眠に影響が出ないように30分以内におさめる方がよいとされています。

4.認知症予防を始めるタイミング

個人差はあるものの、認知症は高齢になって突然始まるというわけではなく、50代くらいから徐々に始まると考えられています。
さらに、脳の血管を硬くして認知症の発症を促進する動脈硬化は、10代からすでに始まるという意見もあるほどです。

認知症に限らず、病気の予防には3段階の考え方があります。一次予防では病気にかからないようにすること、二次予防では早期発見・早期治療をすること、三次予防では重症化しないようリバビリテーションをしたり、再発の予防をしたりします。

認知症では、発症してしまうと根本的な完治ができないため、一次予防が最も重要です。加齢とともに、認知症の予防に取り組み始める方もいますが、年齢に関係なく肥満や高血圧、糖尿病などの病気を患ってしまうと、認知症を発症するリスクが高まります。

認知症は、食事、運動、睡眠など日々の生活習慣の改善によって予防できると言われています。そのため、何歳になったから始めるというわけではなく、少しでも認知症に関して不安があるなら、年齢を問わず、生活習慣の見直しから始めてみることをおすすめします。

5.生活習慣の改善が認知症予防への第一歩

認知症の予防のためには、食事や運動、対人コミュニケーション、睡眠など毎日の生活習慣の改善が大切です。今回ご紹介したように、生活習慣の改善は誰でも今日からできるものばかりです。無理なく、できそうなことから始めてみるとよいかもしれません。

SOMPOケアでは、運動・栄養指導・社会参加・認知機能訓練の観点から生活習慣を改善し、認知機能低下の予防を目指す「SOMPOスマイル・エイジングプログラム」を開発し、一部の事業所でプログラムを提供しています。

SOMPOスマイル・エイジングプログラム

また、もし認知症と診断された場合には、介護付きホームやグループホームを利用しながら生活習慣を改善することもできます。例えば、SOMPOケアが運営する介護付きホームやグループホームでは、短期間からの利用も可能なホームもあり、専門性の高いスタッフのもとお一人おひとりに適した介護サービスの提供により、生活習慣を改善することができます。自分たちだけで頑張ろうとせず、介護サービスを利用してみるのはいかがでしょうか?

記事監修者:大塚真紀

【経歴】

都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカ在住。育児のかたわら、医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作のほか、認知症の患者さんの診療経験を活かし、認知症に関する記事執筆や監修、最新の医学論文の翻訳なども行っています。認知症患者さんと介護者の方の負担が、少しでも軽くなるようにお役に立てればと考えています。

【保有資格】

医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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