せん妄と認知症の違いとは?主な症状や対処法について解説

「認知症」という言葉は聞いたことがあっても、「せん妄」という言葉、病名を聞いたことがある方は少ないのではないのでしょうか。

せん妄とは、病気や医薬品などの影響によって起こる一過性の意識・認知機能の障がいです。高齢者に発症することが多く、認知症と症状が似ていることから早期の発見が難しいとされています。

この記事では、せん妄の特徴・症状を説明するとともに、認知症との違いや対処法について解説します。

1.せん妄とは

せん妄とは、病気や医薬品、手術などが原因で起こる一過性の意識障がい・混乱で、脳の情報処理が正常に働いていない状態のことです。

一般社団法人日本サイコオンコロジー学会と一般社団法人日本がんサポーティブケア学会がまとめた「がん患者におけるせん妄ガイドライン2019年版」によると、せん妄は「身体的異常や薬物の使用を原因として急性に発症する意識障害(意識変容)を本態とし、失見当識などの認知機能障害や幻覚妄想、気分変動などのさまざまな精神症状を呈する病態である」とされています。
(出典:がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版 一般社団法人日本サイコオンコロジー学会 一般社団法人日本がんサポーティブケア学会 編集)

せん妄は次の3つの因子が重なり、影響し合い、脳が興奮状態や活動低下状態になることで発症します。

因子 内容
準備因子 高齢、認知症、脳神経系の疾患(脳梗塞、パーキンソン病)など
直接因子 直接せん妄の発症につながる疾患(脳神経系の疾患、感染症など)や生理学的異常(体温や血圧、心拍の異常など)、薬物など
誘発因子 環境の変化(緊急入院、転院など)、極度の不安・ストレス、疼痛、睡眠障害、身体抑制など

せん妄は高齢者に多く発症することがありますが、一過性のものであり、発症している原因と考えられるものを取り除いていくことで対処できます。

2.せん妄の主な症状

せん妄にはどのような症状があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

注意力の低下

注意力の低下は、せん妄の中心的な症状です。周囲に注意を向けることや何かに集中して取り組むこと、その状態を維持することが困難になります。

また、新しい情報を正しく処理できず、最近の出来事を思い出せなくなります。加えて、ぼんやりとしている、呆然としているなどの状態が見られます。

睡眠・覚醒の昼夜逆転

せん妄では睡眠と覚醒のリズムが乱れてしまい、昼夜逆転の状態になることがあります。朝に起きて日中に活動し夜に寝る、というサイクルが乱れてしまい、結果として夜間を眠れずに過ごし、昼間になるとウトウトしてしまうようなリズムになることがあります。

夜間に興奮状態になる

昼夜逆転などによって、夕方頃からソワソワし始め、夜になると感情が高ぶり、興奮状態になることがあります。このような症状を「夜間せん妄」といいます。生活リズムを整えて昼間に活動できるような環境づくりが必要です。

幻覚・幻視・妄想をともなうことがある

現実にはないものが見える幻覚や幻視に襲われ、ご本人が恐怖し混乱することがあります。また、壁のシミが人の顔に見えたり、建物の影が小動物に見えたりすることで、不安が高まることがあります。症状が重症化した場合には、自分自身や他人が誰であるかわからなくなり、思考が乱れ、支離滅裂の言動をとることがあります。

せん妄の種類

以上のように、せん妄には活動的になったり興奮しやすい状態になったりする症状と、それとは逆に活動量や意欲が低下する症状があります。
これらの症状を踏まえると、せん妄は次の3種類に分類できます。

種類 症状 具体例
過活動型せん妄 24時間以内に下記2項目以上の症状(せん妄発症前より認める症状ではない)が認められた場合
・運動活動性の量的増加
・活動性の制御喪失
・不穏
・徘徊
・落ち着きがない
・興奮状態になる
・大きな声を出す
・病室から抜け出して歩き回る
・点滴のカテーテルを抜く
・家のなかを歩き回る など
低活動型せん妄 24時間以内に下記2項目以上の症状(せん妄発症前より認める症状ではない)が認められた場合
・活動量の低下
・行動速度の低下
・状況認識の低下
・会話量の減少
・会話速度の低下
・無気力
・覚醒の低下/引きこもり
・ぼんやりしている
・声かけに反応しない、反応が乏しい
・会話が続かない
・意欲の減退
・日常生活動作が遅くなる
・注意力の低下 など
混合型 24時間以内に過活動型ならびに低活動型両方の症状が認められた場合 過活動型せん妄と低活動型が混ざったもので、一日の間で両方の症状が現れる

3.せん妄と認知症の違い

せん妄は認知症と似た症状が出るものの、実際には認知症と違う特徴があり、原因や予防法なども異なります。以下、それぞれの違いを表にまとめて解説します。

せん妄 認知症
概要 一過性で起きる軽度~中等度の意識障がいや見当識障がい。 一度獲得した知的能力や思考・判断能力が損なわれる、慢性的な認知機能障がい。
原因 病気などの身体的異常、医薬品などが原因。 脳の器質異常、脳内に異常なたんぱく質が溜まり、脳が萎縮することに由来するが、詳しいことはわかっていない。
発症 短時間で発症する。 時間をかけて進行する。
症状・特徴 ・注意力低下
・幻覚や幻視
・妄想 など
・1日のうちに上記症状が出たり、普段どおりの状態に戻ったりする
・記憶障がい
・見当識障がい
・実行機能障がい など
・日によって症状の大小はあるがおおむね一定
治療 原因疾患や環境を改善することで治まる。 根本的に治癒することが難しく、薬の服用によって進行を抑える。
予防 ・不快・不安の除去
・生活習慣病の予防 など
・栄養バランスの取れた食事
・適切な強度の定期的運動
・ストレスの解消
・適度な社会的交流 など

上記でわかるとおり、せん妄は短時間で発症するのに対し、認知症は時間をかけて進行していく点で異なります。症状が似ているため、せん妄の症状を見たご家族が「認知症になった」と勘違いしてしまうこともあります。

せん妄は端的にいえば、病気などが原因で「軽いパニックを起こしている状態」「周囲の状況が飲み込めず混乱している状態」です。認知症とは根本原因が異なるため、それぞれの特徴をしっかり観察・理解して、混同しないように注意しましょう。

認知症に関する詳しい解説は以下の記事をご覧ください。

4.せん妄と認知症が併発することもある

上記ではせん妄と認知症の違いを指摘しましたが、場合によってはせん妄と認知症が併発することがあります。例えば次のようなケースです。

  • 認知症のある方が身体的疾患(脳血管疾患など)を抱え、治療のために入院した際にせん妄が出る
  • 認知症の進行にともなって脳の情報処理機能が低下し、結果としてせん妄が引き起こされる

以下、せん妄と認知症が併発する場合の特徴を見ていきましょう。

脳血管性認知症はせん妄を併発しやすい

認知症のなかでも脳血管性認知症はせん妄を併発しやすく、バイタルサイン(血圧や体温、脈拍)の測定や、血液検査などで体調管理をおこない、服薬を管理する必要があるとの指摘があります。脳血管性認知症になると、せん妄の症状が出るリスクがあることを理解しておきましょう。

脳血管性認知症に関する詳しい解説は以下の記事をご覧ください。

せん妄でも認知機能障がいがおこる

認知症の特徴である認知機能障がい(記憶障がいなど)はせん妄でも見られるため、どちらが原因となって現れるか見分けがつきにくい症状です。

せん妄症状が出ている方に持続した認知機能障がいが起きる可能性もありますし、せん妄症状の出ている方が認知症を発症する例もあります。

BPSDが重症化する

認知症とせん妄が併発していると、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が重度になるとの指摘もあります。BPSDとは認知症にともなう行動心理症状のことで、具体的には次のようなものです。

  • 不安
  • 抑うつ
  • 徘徊・ひとり歩き
  • 焦燥・攻撃的行動
  • 抵抗
  • 妄想・幻覚
  • 不穏 など

認知症とせん妄を併発すると、これらの症状が出て心身機能が低下し、結果として要介護状態に陥る恐れがあります。このような状態を発見した場合には、すぐに医療機関へ相談して適切な診断・治療を受けてください。

5.せん妄の治療や予防方法について

せん妄には現時点では治療方法はなく、せん妄が発症していると考えられる要因を取り除いていくことが主な対処方法となります。予防法、対処法は次のとおりです。

せん妄の予防方法

せん妄を予防する際には、その要因(原因となる病気、薬剤、不安・ストレス、環境の変化など)の除去・調整を目指します。特に環境の変化や極度の不安・ストレスはせん妄を誘発する原因となるため、これらを軽減するような環境づくりとして、次のような方法を実践してみましょう。

  • カレンダーを目につくところに置いておき、現状を理解しやすい環境をつくる。
  • ご本人が抱える不安や不快(例:痛み・かゆみなど)な状況を取り除く
  • 痛みがあればすぐに伝えてもらうようにする
  • 馴染みのない人たちに囲まれることに不安を感じる場合には、ご家族と一緒に映っている写真や、ペットの写真を部屋に飾る
  • 幻視・幻覚が出る恐れがある場合には、眼鏡や補聴器などの補助具を準備する
  • いつも使っている枕や寝具をベッドに置き、安心できる環境をつくる。

これらの方法によって、危険因子やご本人の不安を取り除くことができれば、せん妄を予防することに繋がります。

せん妄の症状に遭遇しても慌てないことが大切

せん妄の症状が見られたとしても、慌てずに対応することが大切です。せん妄の方が興奮状態にあっても無理して止めようとするのではなく、まずは落ち着いて優しく声をかけ、ご本人の言葉や行動を観察してみましょう。その言動から、騒音や臭い、壁のシミなど周囲の環境に原因があることがわかれば、ご本人の不安・不快を解消できるように環境を整えることが効果的です。

6.せん妄と認知症は異なる病気のため早めの特定が大切

これまで解説してきたとおり、せん妄は身体的異常や医薬品などが原因となって起こる一過性の意識障がいです。原因となる不安の除去や適切な治療を行うことで、多くのケースで症状が改善されます。

一方、認知症は脳の器質異常・萎縮などによって起こる慢性的な認知機能障がいです。それぞれの症状が似ていることから、継続的に観察しないと、せん妄なのか認知症なのか判断ができない場合があります。認知機能が低下し、BPSDの症状が出た場合には認知症を疑うとともに、せん妄の可能性も視野に入れましょう。ご本人に現れる具体的な症状を記録したうえで、かかりつけ医、または精神科医へ相談し、早期発見・早期治療に繋げてください。

また、せん妄と認知症は併発するリスクがあるため、早期に発見し適切な治療につなげることが重要です。決してご家族だけで抱え込まず、かかりつけ医または精神科医に相談するか、地域にある専門の支援機関などに相談しましょう。

万が一、ご家族がせん妄や認知症になり日常生活を送るのに不安がある場合は、SOMPOケアの介護なんでも相談室へご相談下さい

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また、SOMPOケアでは認知症の相談を受け付けています。ご家族が認知症になり、介護問題でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

SOMPOケアの「認知症サポートダイヤル」

監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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