脳血管性認知症とは?症状や原因、予防方法について解説

厚生労働省が発表した「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」によると、認知症高齢者の数は2025年に約700万人となると推測されています。また、同省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、近い将来、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると指摘されています。

認知症は、高齢期における介護の問題と密接に関わり合っています。自身の老後、または親の老後のために経済的な備えを行うだけでなく、認知症を十分に理解し、予防するために何をしたら良いのかを考えておかなければなりません。

この記事では、認知症の一種である「脳血管性認知症」の症状や特徴などを説明するとともに、その原因や他の認知症との違い、予防法を解説します。

1.脳血管性認知症とは

脳血管性認知症とは、認知症の種類の一つで、主に脳梗塞などが原因で起こる認知機能の低下のことです。

厚生労働省の「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」によると、脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られずに脳細胞が死んでしまい、それにともなって現れる認知機能障害を指しています。割合としては、認知症患者全体の約19%を占めます。

脳血管性認知症は「まだら認知症」とも呼ばれます。なぜなら、脳梗塞や脳出血の発生箇所や障害を受けた範囲によって、できること・できないことの偏りが生じ、症状がまだらに現れるためです。また、著しい認知機能の低下が起こる方もいれば、部分的な障害だけで済む方もいるなど、人によって症状が異なる点にも特徴があります。

認知症の種類や予防方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

2.脳血管性認知症になる原因

前述のとおり、脳血管性認知症の原因疾患は脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)です。脳梗塞や脳出血は、運動不足や肥満、喫煙、高血圧などが原因で起こる疾患であるため、生活習慣の改善が予防の基礎となります。

その他、糖尿病や心筋梗塞の経験、狭心症などは脳血管障害の危険因子であり、脳血管性認知症を予防する観点からもその管理が重要です。

3.脳血管性認知症の主な症状

脳血管性認知症の症状は、脳の障害を受けた部位によって異なります。障害を受けた脳の部位では認知機能低下が見られるものの、そうでない部位は正常に働いており、症状にムラ・波が見られることから、別名「まだら認知症」とも呼ばれます。主に見られる症状は以下の3つです。

記憶障害

記憶障害とは、端的にいえば「さっきしたことをすっかり忘れてしまう」や「覚えていたことを思い出せない」という症状です。具体的には、病院の受診日や時間を忘れてしまったり、何度も同じことを繰り返して話したり、眼鏡の場所が分からなくなるなどの短期記憶の障害が出ます。健康な方の場合は、きっかけやヒントを与えると思い出しますが、認知症のある方の場合はさっき経験したことのすべてを忘れてしまいます。つまり、「忘れたことすら忘れてしまう」という状態です。

見当識障害

見当識とは、現在の日時や場所、周囲の状況、周辺の人物の把握など、自分の置かれている環境を総合的に判断する能力です。

私たちは生きているなかで、意識的にも無意識的にも「見当識」を使っています。しかし、認知症に罹患すると見当識に障害が出てしまい、自分がどこにいるのか、いまが何時ぐらいであるのか、目の前にいる人が誰かということがわかりにくくなります。

例えば、自分の家にいても「帰宅する」と外出しようとしたり、慣れた道にいても迷ってしまったりするなど、現在の状況を正常に把握し、判断する力が失われます。

実行機能障害

実行機能障害は、目標や計画を立てて行動することが難しくなる症状です。

私たちは、生きているなかで意識的に、また無意識的にも実行機能を使っています。具体的には次のような例です。

  • 目標を立てる(具体例:晩御飯を作る)
  • 目標達成のために計画を立てる(具体例:買い物へ行く必要があると考える)
  • 計画の実行(具体例:買い物へ出かけ必要な食材を買う)
  • 効果的な行為の模索(具体例:食材の安いスーパーを探す、ついでに他の用事を済ませるなど)

つまり、実行機能とは、目標を達成するために段取り良く判断・行動する能力です。この能力に障害が出ることで、買い物へ行こうと思わない(計画を立てることができない)、買い物へ行ったとしても目標を忘れてしまい、必要な食材を買えない(計画の実行ができない)といった症状が現れます。

4.脳血管性認知症で併発しやすい症状

脳血管性認知症は、脳梗塞・脳出血の後遺症として出現する認知症です。よって、原因疾患となった脳血管障害によって次のような症状を併発することがあります。

  • 歩行障害
  • 運動麻痺
  • 感覚麻痺
  • 言語障害
  • 嚥下障害
  • 排尿障害(頻尿、尿失禁など)

その他、脳血管性認知症に罹患した初期にうつ病を発症することがあります。これは、理解力の低下はあまり見られないものの、もの覚えが悪くなり、これまで一人でできていたことが実行できないことなどが原因で起こります。自分が「できない」という状況にショックを感じて自信を失い、落ち込むことで、結果としてうつ状態になることがあるのです。

5.脳血管性認知症と他の認知症との違い

脳血管性認知症と他の認知症にはどのような違いがあるのでしょうか。

アルツハイマー型認知症との違い

アルツハイマー型認知症では、脳内に溜まった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳の萎縮が起こります。詳しい原因は不明ですが、遺伝、環境、生活習慣などの複数因子が絡み合っていると考えられています。

また、脳血管性認知症のように「まだら」の症状は出ません。全般的な認知機能低下がゆっくりと進行し、早期に発見しづらい点に特徴があります。

アルツハイマー型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

レビー小体型認知症との違い

レビー小体型認知症とは、レビー小体という特殊なたんぱく質により脳の神経細胞が破壊される疾患です。この認知症も脳血管性認知症の特徴である「まだら」の症状は出ず、認知機能の低下が出現します。加えて、幻視、パーキンソン症状(手の震え、小刻み歩行など)が出る点に特徴があります。

レビー小体型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

前頭側頭型認知症との違い

脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで認知機能の低下が現れます。なぜ萎縮するのか、詳しい原因はわかっていません。40代〜60代と比較的若い世代が発症し、特徴としては人格の変化、行動障害、言語障害があります。脳血管認知症の場合はこれらの障害などはあまり見られません。

6.脳血管性認知症の検査方法

認知症は次の方法で診断・検査が行われます。

方法 内容
問診 本人またはご家族からこれまでの経過をヒアリングし、いつ頃から症状が出たのか、どのようなことで困っているのか、生活環境の変化などの情報を得る
面談・診察 血圧の測定、聴診、発語、聴力、麻痺の有無、歩行状態をチェックする
画像検査 CT・MRIを使って脳の画像を撮影し、画像診断(脳の萎縮の有無、脳血管の状態)をおこなう。また、脳血流シンチグラフィーを使って脳の血流の異常を検査する
神経心理学検査 HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)や、MMSE(Mini Mental State Examination)などを使い、簡単な質問(現在の日時、今いる場所など)に対する答え、単純な作業(字を読む、図形を描くなど)の正確さやスピードをチェックする

7.脳血管性認知症の方への対応

脳血管性認知症の場合、脳内でダメージを受けていない部位は正常に働くことが期待できることから、ご本人の認知能力・状態(正常な記憶の範囲など)を十分に理解することが必要です。そのうえで、次のような環境づくりや声がけをおこなうと良いでしょう。

  • 認知機能が正常に働いている部分に注目する
  • 本人が理解できる話題を中心にコミュニケーションを取る
  • 本人の理解度を確認しながら、ここはどこで、誰が話しかけているのか、何を話そうとしているのかをあらかじめ伝える
  • コミュニケーションを取るときはスローテンポの口調で。適度に大きい声で、かつ笑顔で話しかける
  • 日常生活動作で自立してできることは自分でしてもらい、必要に応じて手を貸す
  • 部屋の明るさを適切にし、座り心地の良い椅子に座ってもらい、快適な環境を整える
  • 不安に思っていることは何かを聞き、不安な気持ちに寄り添う
  • 安心感を与えるために、手を握る、肩や背中をさするなど、適度なスキンシップをとる

8.脳血管性認知症を予防するには

脳血管性認知症の原因疾患は脳血管障害であるため、この疾患・障害の予防が重要です。また、認知症全体にいえることですが、予防のためには栄養状態の改善や定期的な運動、積極的な社会参加が重要です。以下、一つずつ説明します。

栄養状態の改善

食事ではエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚を取るようにしましょう。加えて、βカロテンやビタミンC、ビタミンEなどを含む野菜や果物の摂取が認知症のリスクを軽減させると言われています。

定期的な運動

定期的に運動する習慣を身に付けましょう。一回あたりの時間は短くても、毎日または2日に一回、決まった時間に行うなど、習慣化させることが大切です。運動の強度は、自分自身が続けられる程度の無理のない強さにしましょう。

積極的な社会参加

高齢になると移動や地域との交流が億劫となってしまい、どうしても日中を一人で過ごすことが多くなり、他人と接触する機会が減ってしまいます。閉じこもった生活はできるだけ避け、周囲の方と声をかけあって地域活動を担ったり、趣味の会に参加したりするなど、積極的に社会参加をするようにしましょう。

9.脳血管性認知症になる前に生活の見直しを

認知症は明確な予防法が確立している訳ではありませんが、脳血管性認知症は脳血管障害が原因であるため、これに罹患しないように注意すれば予防できる病気です。健康的な生活を心がけて脳血管障害を起こすリスクを軽減し、脳血管性認知症を予防することが重要です。

脳血管性認知症を患った場合は、障害の程度や介護度にもよりますが、訪問介護やデイサービスなど、自宅の生活を継続しながら受けられる介護サービスがあります。自宅での介護が一定期間できない、という場合は、近隣の特別養護老人ホームなどにショートステイすることも一つの方法です。もしご自宅での生活を続けるのが大変だと感じたら、介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)やグループホーム等、介護施設への入居を検討しても良いでしょう。

SOMPOケアの運営する介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)やグループホーム、ケアハウスでは、認知症の方に対して適切なケアができるスタッフを配置しています。静かな居室でゆっくりと過ごすこともできれば、他のご利用者と交流することもできるので、認知症の方にとっては過ごしやすい環境です。介護付きホームでは短期間の利用(ショートステイ)ができるところもあります。

またSOMPOケアでは、認知症のご相談を受け付ける「認知症サポートダイヤル」も設けています。認知症のご不安やお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談してみてはいかがでしょうか。

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監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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