認知症のある方を支えるご家族のなかには、どういった対応が適切なのか、疑問やお悩みを感じている方も少なくないでしょう。具体的にはどのような対応方法があるのでしょうか。
この記事では、認知症のある方への適切な対応をご紹介するとともに、そのポイントや注意点を説明します。
目次
認知症のある方をケアするためには、まずは認知症とはどのような症状の方を指すのか、どのような特徴を持っているのか、理解を深めておくことが大切です。
認知症とは、主に次の3つの能力に障がいが出て日常生活に支障が出る状態を指します。
情報を記憶に残し、必要に応じて取り出したり加工したりする能力が低下する
自分が今どこにいて何をしているのかを正しく把握する能力が低下する
今の状況に応じてどのような行動をしなければならないかを考え行動する能力が低下する
認知症については以下の記事でより詳しく解説しています。
認知症のある方への接し方としては3つの心得があります。一つずつ詳しく説明します。
上記の3つの心得を基本に対応するよう心がけましょう。
ここからは、認知症のある方の対応をするときのポイントをより具体的に解説します。
まずは、認知症のある方を見守ることから始めましょう。さりげなくご本人の言動や表情を観察し、何をしようとしているのか、何を考えているのか、どのようにしてほしいのかを見極めることが大事です。例えば、日頃の生活を観察することで、ご本人の考えや傾向を理解するヒントが得られるかもしれません。
気になったことは記録に留めておき、かかりつけ医やケアマネジャーに相談・情報交換してみましょう。その方に合った適切な対応方法が見えてくるかもしれません。
認知症でない方でも、一度に複数の人から声をかけられたり、たくさんの人からそれぞれ別の話を振られたりすれば、情報を整理できず混乱するのは当然です。現在の状況を正しく理解することが難しい状況のなかで、そうしたことが起きてしまえば、余計に混乱し、不安が大きくなってしまいます。
そのようなことを防ぐためにも、複数人で当事者を囲んだり、声をかけたりするようなことはせず、できる限り1対1で落ち着いた雰囲気で対応することが大切です。
認知症のある方の話を聞き、本人のペースに合わせることは、適切な認知症ケアの基本であり、これによって、ご本人の抱える不安や焦燥感を軽減することが期待できます。
よって、認知症のある方の話をよく聞き、ご本人のペースに合わせ、何を訴えようとしているのか、何を望んでいるのかを考えてみましょう。
急かさず、話の腰を折らずにゆっくりと話を聞くなど、コミュニケーションのテンポをご本人のペースに合わせることが大事です。そして、表情を観察し、何を訴えているのか、何に不安や不満があるのかを見極め考えることが大切です。
目を見て丁寧に話しかけることも大切です。目線を合わせ、穏やかで優しい雰囲気のなかで話しかけるようにしましょう。認知症ケアにおいて、目線を合わせること、優しい雰囲気を作ることは、良好な関係・信頼関係の構築の基本です。
なお、話しかけるときは、後ろから急に声をかけたり、突然大きな声で呼んだりしないように注意しましょう。
認知症のある方が聞き取りやすいよう、ゆっくり、はっきりと話すことを心がけましょう。難しい話題やキーワードは、ご本人の混乱や不穏を引き起こす恐れがあり、不安・焦燥感を助長してしまいます。
これらを防ぐためには、難しい言葉やご本人の理解が難しいキーワードは使わず、できるだけわかりやすい表現にすることがポイントです。また、相手の話を遮ったり一方的に話したりすることはしないよう気をつけましょう。
続いて、認知症のある方への接し方で気をつけるべきこと、やってはいけないことを解説します。
言動を否定したり、侮辱したりするなど、自尊心を傷つけるような言動には気をつけましょう。「それは違う」「間違っている」などと頭ごなしに否定することや、「こんなこともわからないの」など相手を傷つけるような言動は、自尊心を著しく傷つける行為です。
また、ご家族からすれば何気ない一言でも、ご本人の自尊心を傷つけてしまう場合があります。
【例】
「何でそんなこともできないの」
「ダメだと言ったでしょ」
「どうしてわからないの」など
ご本人の性格や特徴、置かれている状況をふまえ、どのような言葉が傷つけることになるのか、十分に注意して接するよう心がけることが重要です。
行動を急かしたり、失敗を怒ったりすることは、ご本人の自尊心を傷つけるだけでなく、怒られたという負の感情だけが残ってしまいます。次のキーワードは代表的なNG例となりますので、できる限り避けましょう。
【行動を急かすキーワード】
「早くして」
「何をしているの」
「時間がないから」
【失敗を怒るキーワード】
「何でできないの」
「どうしてこんなことしたの」
「前も言ったでしょ」
怒られたという負の感情が残れば、信頼関係に悪影響を与えてしまい、介護拒否などに発展する恐れもあります。
認知症のある方に対して細かく指摘したり、行動を制限したりしないようにしましょう。
認知症のある方のなかには、実行機能障害を抱え、状況を正しく理解し適切な行動をすることが難しい方がいます。そのような方に「これはこうすべき」「ここはこうして」といったような細かい指摘をして行動を思いどおりにしようとしたり、力ずくで行動を制限したりすると、かえって興奮や混乱を招く恐れがあります。
認知症のある方への適切な対応方法は、言動や行動ごとにも異なります。具体的にご紹介します。
物忘れや何をするか忘れてしまった場合の対応方法は、ご本人にその自覚があるかないかで異なります。
【自覚がある場合】
忘れてしまったことに対する不安や悲しい気持ちに寄り添い、良いか悪いかを論じることを避けます。認知症や記憶の衰えに対して最も不安を感じているのはご本人であり、その気持ちに耳を傾け、話を聞くことが大切です。
【自覚がない場合】
自覚がない場合（忘れていることすら忘れている状態）は、忘れていることをあえて指摘せずに、そのまま流すことも一つの方法です。無理に自覚させようとはせずに、何もなかったかのように振る舞い、その人の自尊心を保つよう心がけることが大事です。
いずれにせよ、物忘れや記憶障害を最も心配し、苦悩しているのはご本人です。その気持ちに寄り添う姿勢が介護者には求められます。
認知症のある方が外出をしようとする場合は、まずは外出の理由を尋ねてみましょう。その言葉や行動の背景には何があるのか、耳を傾けることが重要です。
ご本人がどうしても外出することを譲らない場合は、外出に付き添うことも、気持ちを落ち着かせる一つの方法です。外出に付き添う時間的な余裕がない場合は、ご本人の目や気を引くことのできるアイテムを見せたり、話題を振ったりして、別のことに気を逸らすことも効果的です。
なお、外出を著しく制限したり、力ずくで行動を抑制したりすることは、認知症のある方の大きな混乱・不穏を招く恐れがあるため、できる限り避けましょう。
物を盗られたなどの被害妄想が出て、ご家族の仕業だといって興奮することがあります。その場合は、「なぜそう思ったの？」「何を盗られたのか教えて」など、相手を否定しないような聞き方で、気持ちを落ち着かせることを優先します。物がなくなって困っている様子だったら、「それは困ったね」と共感する姿勢を示すことも大切です。
そのあと、なくなった物を一緒に探す素振りを見せ、ご本人に馴染みのある思い出の品を出し、それを見せて気を逸らすなども効果的な方法です。
同じ話を繰り返す行為・言動は、認知症のある方に見られる代表的な症状の一つです。ご家族としては、何度も同じ話や質問をされると、ついイライラしてしまいがちです。そこで「その話はさっきも聞いた」「何度も同じ話をしないで」と否定するのではなく、認知症のある方がなぜそのような話をしてくるのか、その背景に注目してみましょう。不安な気持ちがあればその気持ちに寄り添い、以下の例のようにご本人が口にする言葉を繰り返すと良いかもしれません。
【例】
認知症のある方：「小さいときに○○があって……」
ご家族：「小さいときに○○があったんだね」
認知症のある方：「そのときにとても怖くて、とにかく逃げて……」
ご家族：「怖い気持ちになって逃げたんだね」
オウム返しのように相手の言葉を繰り返すだけで、認知症のある方は「聞いてもらえた」と落ち着くことがあります。これを「繰り返しの技法」といいます。
下着を汚してしまったなどの失敗は、ご本人にとって大変なショックであり、恥ずかしさや後ろめたさを伴います。この場合、プライドを傷つけないような気遣い・配慮をすることが大切です。汚れた下着をベッドやタンスに隠している場合は、隠したこと自体を忘れている可能性があるので、発見した時点でそっと片付け、知らない振りをしましょう。
また、トイレの場所がわかるようにドアに貼り紙をしたり、寝室からトイレまでの道順を示してみたりするのも効果的です。夜間にトイレへ行く頻度が多ければ、その道順を適度な明るさにしておきましょう。
失敗が続くようであれば、介護保険を使って購入できるポータブルトイレ（簡易トイレ）を用意することも方法の一つです。ご本人の心身の状況や介護の手間などを勘案し、検討してみてください。
認知症のある方のなかには、何かのきっかけで不満や苛立ちを感じ、大きな声を出したり攻撃的になったりする方もいらっしゃいます。このような行動は、自身を守るための防衛反応であるもいえ、ご家族でも落ち着かせるのが難しいものです。
ご本人が興奮している場合には、対応する人を変えたり、ご本人が落ち着ける場所へ移動したりするなど、人を変える・環境を変えることが効果的です。暴言や暴力が一時的なものではなく常態化した場合は、速やかにかかりつけ医や地域包括支援センター（後述）に相談し、専門家の意見を聞いてみてください。
認知症のある方への適切な対応の基本は、ご本人の気持ちに寄り添うことです。詳しくはこちらをご覧ください。
認知症の対応でどうすれば良いのかわからない、自分一人では対応が難しいといった場合は、誰を頼れば良いのでしょうか。ここでは、困ったときに頼りたい専門機関をご紹介します。
まずは、かかりつけ医・認知症外来などの医療機関に相談するとともに、市区町村役所の窓口や地域包括支援センターなどの相談機関を利用しましょう。
地域包括支援センターは、地域に住む高齢者の生活を支えてくれる公的な支援機関で、認知症だけでなく、家族介護に関するあらゆる相談に応じてくれます。困ったことがあれば、一人で抱え込むのではなく、このような相談窓口を利用することが大切です。
認知症のある方の生活を支えるには、適切な介護保険サービスの利用が欠かせません。担当のケアマネジャーにご本人の心身状況や日常生活で困っていることを伝えたうえで、ケアプランを作ってもらい、介護保険サービスを利用するようにしましょう。
介護保険サービス（例：訪問介護、デイサービスなど）は、ご家族を介護から開放することに繋がります。ご本人の心身状況、ご家族による介護の手間などを勘案し、適切に利用することをおすすめします。
ＳＯＭＰＯケアでは、住み慣れている家や慣れ親しんだ土地での生活ができるように、さまざまなサービスをご用意しております。
ＳＯＭＰＯケアの在宅サービスについて詳しくは下記ページをご覧ください。
オレンジカフェは、認知症高齢者やそのご家族が集まり、お互いの経験や悩み、有効な情報などを共有したり、お互いを理解し合ったりできる場として運営されています。認知症カフェとも呼ばれています。当事者でしかわかり得ない情報・感情を共有することができるピアカウンセリングの機能もあるので、対応に困ったらぜひ参加・相談してみましょう。
あらためて、認知症のある方への適切な対応方法や気をつけるべきポイントは次のとおりです。
認知症のある方の気持ちに寄り添い、サポートすることは大切なことですが、頑張り過ぎたり、一人で抱え込んでしまったりすることは避けましょう。認知症のある方だけでなく、それを支えるご家族も安心して過ごすことが大切です。
福祉系専門学校の教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や医療保険などの社会保障にも精通している。専門学校で教鞭を取る傍ら、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。
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