認知症の種類や症状とは?それぞれの原因や検査・治療方法について徹底解説

認知症にはさまざまな種類があり、発症の原因や症状、治療法などが異なります。認知症を予防し適切な対応をするためにも、認知症に関して正しい知識を深めていくことが大切です。

今回は、認知症の種類やそれぞれの発症原因、また認知症の予防方法などを解説します。

※この記事内での認知症予防とは、認知機能低下防止および認知症のリスク低減に有効と一般的に言われている対策の事例紹介や、認知症の早期発見・早期治療、進行抑制までを含んでいます。

1.認知症とは

認知症はさまざまな原因によって脳が萎縮する病気で、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がきっかけで発症します。

認知症にはいくつか種類がありますが、代表的なものは次の4つです。

  • アルツハイマー型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 脳血管性認知症
  • 前頭側頭型認知症

認知症になると認知機能が低下し、正常な判断ができなくなったり、身体を動かすことが難しくなったりして、日常生活に支障が出ます。

認知症の基本情報

厚生労働省の「令和6年版高齢社会白書」によると、我が国の65歳以上人口は3,623万人となり、総人口に占める割合が29.1%となりました。また、同書によると、令和4年における認知症高齢者の数は443.2万人(有病率12.3%)と推計されています。高齢者の8人に1人が認知症に罹患している現状です。

今後、高齢化の進展にともなって認知症の高齢者は増加すると見込まれています。そのため、どのようにして認知症高齢者を社会全体で支えていくかが大きな課題となっています。

加齢による物忘れとの違い

認知症は物忘れとどのように違うのでしょうか。以下の表で説明します。

認知症 物忘れ
概要 認知機能の低下による記憶障害 加齢による脳機能の衰え
症状の範囲 ・体験・経験した出来事の全体を忘れる
・新しい出来事を覚えられない
・ヒントがあっても思い出せない
・食べたことを忘れてしまう
・時間や場所がわからなくなる
・体験・経験したことの一部を忘れる
・ヒントがあれば思い出せる
・何を食べたのかを忘れる
・時間や場所を間違える
日常生活への支障の有無 支障がある
・今まで使っていた物の使い方がわからなくなる
・同じことを繰り返し聞く
・同じことを何度も繰り返す
など
支障はあまりない
ご本人の自覚 自覚がない 自覚はある
感情 感情の変化がある
・怒りっぽくなる
・疑い深くなる
など
通常通りで特に変化はない
物事に関する興味や関心・意欲 物事に対する興味や関心・意欲が薄くなる傾向にある 特に変化はない

軽度認知障害(MCI)との違い

軽度認知障害(MCI)は正常な脳の状態と認知症の状態の中間と位置づけられ、日常生活への影響があまりない程度の記憶障害、または物忘れが出ている状態です。行き慣れている公園に行ったり、使い慣れているテレビのリモコンを使えたりはできますが、新しい場所に行ったり、新しい家電製品を使うのが苦手になります。

軽度認知障害(MCI)の段階では、認知症ではありませんが、健康な状態ともいえません。MCIの高齢者数は558.5万人とされており、今後も増加すると見込まれます。また、MCIとされる方の一定数が、認知症に移行することが指摘されており、注意が必要です。

2.代表的な認知症の種類とそれぞれの原因

認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因と症状が異なります。以下、詳しく見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症のなかでも最も多いとされています。原因と症状は次のとおりです。

主な原因

アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβやタウタンパクというたんぱく質が異常にたまり、脳全体が萎縮することで発症します。脳のなかで記憶をつかさどる海馬とよばれる部分から萎縮が始まることが多く、徐々に脳全体が萎縮します。

症状

初期から記憶障害の症状が出て、進行していくにつれて身体機能にも影響が出てきます。中期になると、自分で服が着られなくなったり、お茶が入ったペットボトルのフタが開けられなくなったりする失行が見られます。後期になると、相手がご家族であっても誰なのか認識できなくなります。身体機能は著しく低下し、歩行能力や食事動作もかなり衰え、寝たきりになってしまう場合もあります。

対策・サポート

アルツハイマー型認知症は進行が早いため、早期発見と適切な治療で進行を遅らせることが大切です。

以下の記事では、アルツハイマー型認知症をより詳しく解説しています。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症の原因・特徴は次のとおりです。

主な原因

レビー小体型認知症は、レビー小体とよばれる異常なタンパク質が脳の神経細胞に溜まり、神経細胞を壊してしまうことが原因で発症します。

症状

レビー小体型認知症の主な症状は、手足が震える振戦、筋肉が強張り身体がスムーズに動かなくなるなどの、いわゆるパーキンソン症状や、実際にはいないのにご本人にははっきりと見える幻視、何も鳴っていないのに音が聞こえる幻聴などがあります。

また、一日のなかで症状の変動がみられることも特徴の一つです。穏やかに過ごしていると思っていたのに急に興奮状態になったり、錯乱したりといったことを繰り返すこともあります。

対策・サポート

幻視や幻聴が出ても、頭ごなしに否定しないことが大切です。また、幻視を起こしにくくする環境整備(部屋を適度に明るくする、こまめに掃除する)も効果的です。

以下の記事では、レビー小体型認知症をより詳しく解説しています。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は脳の血管障害が原因で起こる認知症です。主な原因と症状は次のとおりです。

主な原因

脳血管疾患である脳梗塞や脳出血によって起こる認知症で、その発生箇所や障がいの程度によって認知機能が著しく低下する場合もあれば、それほど低下しない場合もあります。人によって機能低下の程度が違ったり、失われている能力に幅があったりするため、まだら認知症とも呼ばれています。

症状

脳血管性認知症の症状は障がいが発生した脳の箇所にもよりますが、感情が不安定になり些細な出来事で涙が出てしまう感情失禁をはじめ、他の認知症と同様に理解力や判断力、記憶力などの認知機能の低下、手足の麻痺や感覚障害などの神経症状が挙げられます。

対策・サポート

脳血管性認知症は、ご本人ができる能力(残存機能)の活用が重要です。よく観察し、認知機能が正常に働いている部分に視点を当て、ご本人が理解できる話題を中心にコミュニケーションを取る、日常生活において自分でできることはしてもらうなどの対策を心がけましょう。

以下の記事では、脳血管性認知症をより詳しく解説しています。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症の原因と症状は次のとおりです。

主な原因

前頭側頭型認知症は、脳に異常なたんぱく質がたまり、脳の前頭葉と側頭葉のいずれかの神経細胞が壊れ、脳が萎縮することで起こる認知症です。進行すると前頭葉、側頭葉ともに萎縮します。

症状

主な症状としては、家事をしなくなったり、質問しても真剣に答えなくなったりする自発性の低下、物の名前が出にくくなる言語障害、他人への興味がなくなる感情の麻痺などが挙げられます。

また、欲求を抑えられずに本能のままに行動することもあります。ご本人に罪悪感はないものの、場合によっては礼儀に欠けた行動をとったり、暴力をふるったりして周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。単に性格が変わっただけだと思われ認知症の発見が遅れがちになることが多いのも、前頭側頭型認知症の特徴です。

対策・サポート

前頭側頭型認知症の特徴を十分に理解したうえで、落ち着いた雰囲気で接することを基本とします。また、強い抵抗感が起きた場合は強い力で抑制することを控え、よく観察して冷静に声かけを行い、別のことに注意を向けさせるなどの対策を行いましょう。

以下の記事では、前頭側頭型認知症をより詳しく解説しています。

3.その他の認知症の種類や原因

上記以外の認知症の種類と、それに関連する疾患をご紹介します。

アルコール性認知症

アルコール性認知症は、多量のアルコール摂取が原因で起こる認知症です。アルコールを多量に摂取するとビタミンB1が欠乏し、脳の神経細胞の働きが悪くなります。それによって注意力や記憶力が低下したり、感情のコントロールができなくなったりするといった認知機能の低下が起きます。

若年性認知症

若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症を指し、全国に約3.6万人いるといわれています。具体的な症状は高齢者が罹患する認知症と大きな差はなく、認知機能の低下によって自立した日常生活を送ることが難しくなります。高齢期に発症する認知症とは違って特有の困難(就労面、経済面など)があり、年齢に合わせた精神的・社会的な支援が求められます。

以下の記事では、若年性認知症をより詳しく解説しています。

正常圧水頭症

正常圧水頭症では、注意力や意欲の低下、歩行障害、尿失禁などの症状が出ます。正常圧水頭症は脳のなかにある脳室とよばれる場所に脳せき髄液が溜まることによって発症しますが、手術で治る可能性があります。

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫は、転倒などが原因で脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まってしまう病気です。溜まった血液によって脳が圧迫され、記憶障害や歩行障害、尿失禁などの症状が出ます。手術によって溜まった血液を除去できれば治る可能性があります。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とは、甲状腺の働きが低下することにより甲状腺ホルモンの分泌量が減る病気です。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を活発にするはたらきがあり、分泌量が低下すると、思考力や記憶力の低下に加え、疲労感、むくみ、便秘、脱毛、体重増加などの症状が出ます。

4.認知症の検査方法

認知症を検査する方法はいくつかあります。以下、代表的な検査方法を示します。

種類 検査方法・内容
神経心理検査 ・長谷川式簡易知能評価スケール
・ミニメンタルステート検査(MMSE)など
今いる場所、日時などの簡単な質問をして、返答内容を確認する検査
また、文字を読む、図形を描くなどの簡単な作業を与え、その反応や進度を検査する
画像検査 ・CT
・MRI
・VSRADなど
放射線や磁気、電波を使って脳の断面図・内部を撮影し、脳の萎縮の状態や脳梗塞の有無を検査
認知症の種類を推測する

5.認知症の進行による症状の変化

認知症が進行すると、どのような症状が出るのでしょうか。以下、アルツハイマー型認知症を例に、初期・中期・後期のそれぞれの特徴を整理して解説します。

度合い 症状
初期症状 ・もの忘れが多くなる
・日時が曖昧になる
・言葉が出なくなる
・同じことを何度も尋ねる
・最近の記憶(今日の日付、朝ご飯のメニューなど)がわからなくなる など

ただし、遠い過去の出来事(自分の誕生日、息子や娘の名前、生まれ育ったふるさとなど)は思い出せる場合が多い
中期症状 上記、初期症状に加え

・食事や移動、入浴やトイレなどが一人でできなくなる 計算ができない
・失語、失認(認知の欠如)、失行(運動障害や行動障害)
・うまく言葉が伝えられない
・他人の言葉を理解することが難しくなる
・人や場所がわからなくなる など

簡単な会話は成り立つが、複雑な話題(お金の計算、人間関係など)は難しくなる。また、これまでできていた簡単な行為ができなくなる
後期症状 上記、初期症状、中期症状に加え

・関節拘縮が見られるなど身体機能が著しく低下
・人によっては寝たきりとなる
・日常生活の多くの場面で介助が必要になる
・子どもや孫の顔がわからなくなる
・言語をともなったコミュニケーションが難しくな
・発語はあっても意味が不明瞭
・他人の言葉を理解することが難しい など

6.認知症は治療できる?

今後ますます社会的な対策が求められる認知症ですが、治療可能なのでしょうか。現状を見ていきましょう。

根本的な治療方法は確立されていない

認知症に関する研究は進められていますが、根本的な治療方法はまだ確立されていません。しかし、発症を防ぐための予防法や、進行を緩やかにするための薬はあります。

特に注目したいのは、2023年9月に厚生労働省が新薬として承認したレカネマブです。
レカネマブは、アルツハイマー型認知症が軽度である方や軽度認知機能障害(MCI)の方を対象とした薬で、アルツハイマー病の原因物質を取り除き進行を遅らせる効果が期待されています。

ただし、新薬の登場が根治に繋がる訳ではありません。認知症を早期に発見し、診断を受け、適切な治療を行うことが大切です。

治療が可能な場合もある

正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症は治療が可能な疾患です。具体的な治療方法は次のとおりです。

疾患 治療方法の例
正常圧水頭症 脳室腹腔シャント術、脳室心房シャント術、腰部くも膜下腔腹腔シャント術 など
慢性硬膜下血腫 血腫が厚く症状がある場合には、頭蓋骨に小さい孔を開け、硬膜を開く手術にて取り除く
甲状腺機能低下症 甲状腺ホルモンの服用による治療方法があり、少量の投与からはじめ、継続する必要がある

7.認知症を予防するためには

それでは、認知症を予防するためにおすすめする、日常生活での取組みをご紹介します。

習慣的に運動をする

定期的に運動を続けることは、認知症だけでなく、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症などさまざまな病気の予防に繋がります。認知症の予防に適した運動は、散歩やウォーキングなどの有酸素運動です。有酸素運動をすることで、全身の血行が良くなり脳細胞を活性化させることができます。

運動というと、ジムに通ったり、長い時間走ったりしなくてはいけないと考える人もいるかもしれませんが、認知症の予防のためには毎日続けることが大切なので、少しの散歩やウォーキングからで構いません。今まで歩く習慣がなかった人は、まずは電車を早めに降りて一駅分の距離を歩くことや、エレベーターではなく階段を使うことから始めてみても良いかもしれません。

習慣的に脳を使う

日頃から脳を使う習慣があると、認知症を予防できると考えられています。ゲームやクイズ、パズル、計算などは、脳を使うために有効な手段です。
また、料理や工作などもおすすめです。地域によっては、高齢者を対象とした料理教室や絵画教室などを開催している場合があるので、参加してみるのも良いかもしれません。

生活習慣を整える

バランスの良い食事を心がけたり、十分な睡眠をとったりして健康的な生活習慣に整えることは、認知症の予防に繋がります。糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は、アルツハイマー型認知症を発症するリスクを増加させることがわかっています。また、脳梗塞は生活習慣の悪化によって引き起こされる可能性が高く、発症してしまうと脳血管性認知症に繋がる可能性もあります。

生活習慣を整えるためには、まずバランスの良い食事を心がけることが大切です。魚や緑黄色野菜、果物など栄養が豊富に含まれているものを食べる、塩分の摂りすぎに注意する、間食を控えるなどは、認知症の予防に効果的です。また、アルツハイマー型認知症を引き起こす原因のアミロイドβというたんぱく質は、起きている時間に増え、寝ている時間に減ると言われています。そのため、睡眠時間が短いとアミロイドβが脳に蓄積されていき、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが高まります。適切な睡眠時間にも個人差はありますが、最低でも1日6時間は寝るようにしましょう。

8.少しでも困ったことがあったら

認知症は、種類によって発症する原因や症状が異なります。現在、認知症の根本的な治療法は見つかっていないため、発症の予防や、早期発見し症状の進行を遅らせる適切な治療やリハビリテーションを受けたりすることが大切です。

認知症のある方の介護は長期にわたることがほとんどです。そのため、ご家族だけで解決しようとすると負担が大きくなる場合があります。自分たちだけで頑張ろうと抱え込んでご家族が疲弊してしまうと、認知症のある方とも良い関係が築けなくなり悪循環になる可能性があります。認知症の介護で大切なのは、ご本人の気持ちを尊重することと、介護者の負担を減らすことです。ご家族だけでの対応に不安を感じたら、介護サービスの利用を検討するなど、周囲を頼るようにしましょう。

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監修・執筆

林 修造

福祉系専門学校の教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や医療保険などの社会保障にも精通している。専門学校で教鞭を取る傍ら、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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