前頭側頭型認知症とは?発症原因や詳しい症状について解説

前頭側頭型認知症は初老期に発症する認知症の一つで、65歳未満の方に起こる若年性認知症の原因の一つとなっています。

前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症と比べて進行が早く、人格変化などの特徴的な症状が出ます。しかし、この病気に対する社会的な理解が進んでいないうえ、支えるご家族の身体的・精神的負担が大きいといった問題もあります。

この記事では、認知症の一種類である前頭側頭型認知症の症状や特徴を説明するとともに、その原因や他の認知症との違い、適切な対応方法を解説します。

1.前頭側頭型認知症とは

前頭側頭型認知症とは前頭側頭葉変性症による認知症の一つで、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで認知機能が低下する疾患とされています。

前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」をつかさどります。これらが萎縮することによって、人格の保持、社会生活の維持、言語コミュニケーション等に障害が出ます。
比較的初老期に発症することが多く、アルツハイマー型認知症など他の認知症とは異なり、この病気特有の症状が出ます(後述)。

認知症の種類や予防方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

2.前頭側頭型認知症の原因

前頭側頭型認知症のもととなっている前頭側頭葉変性症は、国が指定難病に定めている疾患で、現時点では明確な原因が分かっておらず、治療方法も確立していません。神経細胞にたんぱく質が異常に蓄積されることが影響しているとされていますが、なぜこのような変化が起こるかは分かっていません。

厚生労働省の「平成27年7月1日施行の指定難病(告示番号111~306)」によると、前頭側頭型認知症は40代〜60代の初老期に発症しやすく、70 歳以上で発症する例は稀だとされています。

3.前頭側頭型認知症の主な症状

前頭側頭型認知症の主な症状は以下の通りです。

人格の変化・行動障害

社会性の欠如

前頭葉の萎縮により、さまざまな刺激に対する反応や欲求を抑えることが難しくなります。よって、目の前にあるものを欲しいと思い、そのまま行動にうつしてしまうことがあります。

例)

  • 店頭に並んでいる食べ物を口にする
  • 店内の商品を精算せずに勝手に持って行く
  • 度を越してふざけてしまう など

上記の例のように周囲に対して配慮することが難しくなり、社会的に失礼にあたる行動が見られるようになります。この社会性の欠如が原因で周囲の理解を得られずに孤立し、支える側のご家族も身体的・精神的に疲弊してしまう恐れがあるのです。

会話内容の理解力が落ちる

前頭葉、側頭葉の萎縮により言語の障害が出ると、知っているはずの言葉を聞いてもその意味が分からなくなります。そのため、他者と会話をしたとしてもその内容を理解できないことが多くなります。

常同行動

常同行動とは、同じことを繰り返してしまう行動を指します。毎日決まったコースを散歩したり、同じ料理を食べたりします。 初期症状のうちは会話ができ、会話の内容が理解できるため、周りが指摘をすると常同行動をストップするケースが多くありますが、病気が進行すると常同行動を制止することが難しくなります。

食行動変化

食行動変化では食事の嗜好が変化し、例えば、次のような症状が出ます。

  • 甘い物が過剰に好きになる
  • 毎日同じ料理を食べる
  • 食べ物をあればあるだけ食べる(過食)
  • 飲酒、喫煙行動が増える
  • 異食(食べられないものを口にする)

毎日同じ料理を食べることは、常同行動にも当てはまります。その他にも、今まで食べていなかったものを好むようになったり、食べ物ではなものを口に入れたり、飲み込んでしまったりといった行動を起こします。

自発性・共感性の低下

他者の欲求や感情に対して共感的な反応を示さない、社会的な交流場面において人間的な感情を出すことが難しいなど、いわゆる社会的な礼儀やマナーが欠如しているように見られます。

言語障害

言語障害は、左側の側頭葉が萎縮することで起こり、知っている言葉を聞いても意味が理解できなくなります。進行するにつれ、日常生活でよく使う言葉の意味もわからなくなってきます。結果として、会話をしていてもその内容を理解できなかったり、知っているはずの単語が出てこなかったりして、会話が成り立たないことがあります。

また、例えば「団子」や「海老」の文字を見せて読んでもらおうとすると、それぞれ「だんし」「かいろう」と読むなど、通常とは異なる読み方をします。そのうえ、言葉の意味を問うと「男の子」や「海の老人」と答えるなど、言葉の意味や読み方に対する理解がなくなります。

4.前頭側頭型認知症で受けられる経済支援

前述のとおり、前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)は指定難病であるため、必要な医療を受ける際には、国または地方自治体から医療費の助成を受けることができます。具体的には次のような助成です。

  • 自己負担割合が従来の3割から2割への引き下げ
  • 医療費の自己負担額に上限がある(入院と外来の区別はない)

自己負担の上限額は世帯の所得によって異なります。一般所得世帯(世帯収入が約370万円~約810万円)では自己負担上限額が2万円(月額)と定められていますので、同疾患の治療に関して経済的な負担が少なくて済みます。詳しくは政府オンラインの「難病と小児慢性特定疾病にかかる医療費助成のご案内」をご覧下さい。

なお、医療費助成を受けるためには、お住まいの都道府県または政令指定都市の窓口(保健福祉担当課や保健所等)への申請が必要です。申請の際には、難病指定医による診断書も必要となります。

5.前頭側頭型認知症と他の認知症との違い

前頭側頭型認知症には他の認知症と異なる点が多くあります。ここでは、認知症のなかで最も代表的なアルツハイマー型認知症と比較し、それぞれの違いを説明します。

項目 前頭側頭型認知症 アルツハイマー型認知症
年齢 40〜60代と初老期に発症しやすい 60歳以降の年齢層で発症することが多い
原因 脳内のたんぱく質が多くなり(原因不明)、主に脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで認知機能が低下する 脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳の大部分において萎縮が起こる。原因不明だが、遺伝・環境・生活習慣などの複数因子が絡み合っていると考えられている
主な症状 人格の変化、行動障害、言語障害 記憶障害、見当識障害、実行機能障害など
症状の進行 進行のスピードが早く、急速に症状が悪化する傾向がある 徐々に進行する

アルツハイマー型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

6.前頭側頭型認知症の検査方法

前頭側頭型認知症の検査では、CTやMRIを用いて前頭葉や側頭葉前方に萎縮が見られることを確認し診断することが一般的です。加えて、PETやSPECTで脳血流の状態を検査します。

ちなみに、認知症は通常、次の方法で診断・検査が行われ、上記を補完する形でこれらの検査が行われる場合があります。

方法 内容
問診 本人またはご家族からこれまでの経過をヒアリングし、いつ頃から症状が出たのか、どのようなことで困っているのか、生活環境の変化などの情報を得る
面談・診察 血圧の測定、聴診、発語、聴力、麻痺の有無、歩行状態をチェックする
画像検査 CT・MRIを使って脳の画像を撮影し、画像診断(脳の萎縮の有無、脳血管の状態)をおこなう。また、脳血流シンチグラフィーを使って脳の血流の異常を検査する
神経心理学検査 HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(Mini Mental State Examination)を使って、簡単な質問(現在の日時、今いる場所など)に対する答えと、単純な作業(字を読む、図形を描くなど)の正確さ・スピードをチェックする

なお、症状初期の頃に検査した場合、画像上で前頭葉・側頭葉の萎縮があまり見られず診断が付きづらいケースもあります。

7.前頭側頭型認知症の方への対応

前頭側頭型認知症の方や、それを支えるご家族が日常生活を穏やかに過ごすためには、ご家族や介護をする方がこの病気を十分に理解したうえで、適切に接し対応することが重要です。以下、前頭側頭型認知症の方への対応方法をご紹介します。

前頭側頭型認知症を知ることから

まずは、前頭側頭型認知症について知ることから始めましょう。なぜならこの認知症は、その特徴を理解しないままでは適切な対応ができないからです。十分な理解が無いなかで誤った対応をしてしまえば、結果としてご本人の尊厳を守ることができないばかりか、信頼関係が崩れ、介護拒否に繋がってしまう恐れがあります。

前頭側頭型認知症を十分に理解することで、ご本人の行動の原因や特徴を知り、適切な対応を取ることを心がけ、安全に暮らすための環境を整えることが重要です。

自然体で接する

できるだけ緊張や不安を感じない環境で、自然体で接するようにしましょう。前述のとおり、前頭側頭型認知症では人格変化による反社会的な行動が目立つため、ご家族や介護者は身構えてしまいますが、それだとご本人も感情的になりやすく、落ち着かせることが難しくなります。

行動を制止せず、工夫を

社会性が欠如した行動や常同行動が見られると、ご家族としては心配になり、どうしてもそれを止めようとしてしまいます。しかし、ご本人の行動に対し過剰に反応して制止すると、場合によっては興奮させてしまうことがあります。よって、制止するのではなく、冷静に行動内容を観察しながら、別のことに注意を向けてもらうなど、対応に工夫をしてみましょう。

コミュニケーションを工夫する

前頭側頭型認知症は、ご本人が理解できる言葉の数が減少していくことで周囲との言語コミュニケーションに障害が出ます。よって、言葉だけでメッセージを伝えることが難しくなる特性を理解し、ジェスチャーで伝える、絵や物を見せるなど、視覚に訴えてコミュニケーションを取るように工夫しましょう。

周徊は放置しない

周徊とは、常同行動の一つで、本人の決めた特定のルートを毎日歩き回ることです。ご本人は疲れていても歩き続けるため、転倒による骨折や怪我の恐れがあります。よって、歩行中に休憩を取れるように工夫したり、「15時は家でおやつを食べる」と決めたりして、帰宅を常同行動のなかに入れるようにしましょう。

行動を観察する

前頭側頭型認知症の方が求めているものを見つけるためには、毎日どのように行動し何に興味を示しているのかを観察することが大切です。その結果、行動のパターンや特徴を知ることができます。十分に手がかりを探ったうえで、それを日々のケアに活かすように工夫しましょう。

環境を整える

前頭側頭型認知症の方は、周囲の方の行動や声、騒がしい音などに反応しやすく、それに対して突発的な行動を取ることがあります。静かな環境で食事や作業をしたり、集中できるスペースを作ったりすると良いでしょう。

8.介護サービスを利用して負担の軽減を

前頭側頭型認知症は症状に特徴があり、見守るご家族としてはストレスを感じやすいでしょう。「できていたはずの○○ができなくなった」「昨日はこんな思いがけないことをしていた」など、気に病んだり落ち込んだりする気持ちは十分に分かります。

しかし、ご本人にはまだまだ残っている機能や力があるはずです。できることを褒めたり、してくれたことに感謝したりしながら良好な関係を築き、認知症を患っていてもご本人らしい生活ができるように支えていくことが重要です。

前頭側頭型認知症は「指定難病」であるため、医療費の助成などの公費による経済支援を活用して、経済的な負担の軽減につなげることができます。ご家族が前頭側頭型認知症と診断をうけたら、決してご家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターに相談しましょう。また、施設を利用することも検討している場合には、認知症のケアに特化している施設への入居を検討するようにしましょう。

SOMPOケアが運営する介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)やグループホームは、認知症ケアの対応ができるスタッフがお一人おひとりに適した介護サービスを提供し、認知症の方でも安心してお過ごしいただける環境となっています。

またSOMPOケアでは、認知症のご相談を受け付ける「認知症サポートダイヤル」も設けています。認知症のご不安やお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談してみてください。

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監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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