若年性認知症とは?原因となる疾患や症状・検査方法について解説

2017 年度~2019 年度に日本医療研究開発機構(AMED)が実施した調査によると、若年性認知症の方の有病者数は3.57 万人と推計されており、有病率は18~64歳の人口10万人あたり50.9人です。

若年性認知症は現役世代が発症するため、それを踏まえた社会的な支援のほか、ご本人を支えるご家族を含めたケアもとても重要です。

この記事では、若年性認知症の原因疾患や主な症状、検査方法を解説するとともに、利用できる制度やサポートをご紹介します。

1.若年性認知症とは

若年性認知症とは、一般的な認知症と異なり、高齢期以前に発症する認知機能の障害のことです。

国立精神・神経医療研究センター「知ることからはじめよう こころの情報サイト」によると、認知症とは「脳の病気や障害などさまざまな原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態」と定義されています。また、若年性認知症を「65歳未満で発症する認知症」としています。

では「若年性認知症」と、高齢期に起こりやすい「認知症」とではどのような点が違うのでしょうか。

高齢者の認知症との違い

認知症は、脳の萎縮や、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害がきっかけで認知機能が低下することで、記憶や思考に障害があらわれます。
若年性認知症はそのような脳の萎縮などが高齢期ではなく、18歳~64歳の若年期~初老期にみられます。発症年齢の平均は51.3歳とされています(参考:若年性認知症ハンドブック(改訂版)厚生労働省)

また、高齢期の認知症は進行とともに身体機能の低下が見られますが、若年性認知症の場合は必ずしもそうとは限らず、自力歩行ができ、体力があり軽作業も可能な場合も多いです。

ただし、若年性認知症の場合、認知症になったご本人が年齢的にも現役世代であることが多く、認知機能の低下により仕事に支障がでて職を失い、経済的に困窮してしまうこともあります。
また、認知症当事者を支えるご家族の負担も大きくなる場合があります。高齢者の認知症と異なりご本人に体力があるため、認知症による行動・心理症状(BPSD)が家族に与える負担が大きくなる、場合によっては親の介護とタイミングが重なる、そして子どもが未成年である場合もあるので介護を手伝うことが難しく、子供が受けるショックも大きくなってしまうなど、高齢者の認知症の方とは違った問題に発展しやすい点に注意が必要です。

認知症の種類や予防方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

2.若年性認知症の種類とその原因

では、若年性認知症にはどのような種類があり、どのような原因で発症するのでしょうか。
以下、若年性認知症の原因となる、主な認知症を紹介します。

アルツハイマー型認知症

脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳の萎縮が起きる認知症です。原因は不明ですが、遺伝、環境、生活習慣など複数因子が絡み合っていると考えられています。若年期であっても認知機能が低下し、記憶障害や見当識障害、実行機能障害が出て、生活に支障をきたします。

アルツハイマー型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管疾患によって、脳細胞に十分な血液が送られずに脳細胞が死んでしまい、それにともなって現れる認知機能障害を指します。高齢期に発症する脳血管性認知症と同様に、若年期に脳血管疾患を患った場合にはその後遺症によって認知症を発症する場合があります。

前頭側頭型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで現れます。なぜ萎縮するのか、詳しい原因はわかっていません。40〜60代と比較的若い世代が発症し、特徴としては、人格の変化、行動障害、言語障害等があります。

前頭側頭型認知症については、以下の記事で詳しく解説しています。

3.若年性認知症の症状

ひと口に若年性認知症といっても、原因となる認知症の種類によって症状は異なります。ここからは、種類ごとにどのような症状が現れるのか、具体例を示して説明します。

認知症の主な症状や進行段階ごとの状態については、以下の記事でも詳しく解説しています。

アルツハイマー型認知症の症状

発現時期を特定できないほどゆっくりと出現し、進行も非常に緩やかです。初期においては、最近の記憶は失われるものの、遠い過去の出来事は思い出せる場合が多くなっています。その他、判断力の低下や実行機能の障害(物事の段取りがうまくいかないなど)が起き、着替えができなくなるなどの症状が出て、一部の日常生活動作(食事、着替え、移動、排泄、入浴など)を行うことが難しくなります。迷子になる、買い物を一人でできない、自動車を安全に運転できなくなる、などといった変化が主な例です。

後期には身体機能の低下が著しくなり、ほとんどの日常生活動作に介助を必要とします。そのうえ、関節などの屈曲・拘縮が加わり、やがて寝たきり状態になります。

脳血管性認知症の症状

脳血管性認知症は多くの場合、発症初期にめまいや頭の重さ、しびれ、疲れやすいなどの身体症状が出ます。ただし、脳梗塞や脳出血の発生箇所や範囲によって認知機能の低下度合いは異なるため、人によって症状の強弱は違います。記憶や判断の障害だけでなく、半身麻痺、言語障害の程度もさまざまです。

前頭側頭型認知症の症状

ご本人には病気であるという自覚がなく、自分の身なりや周りの方に対する関心が失われます。また、日常生活では同じことを繰り返し行う「常動行動」が見られます。その他、先程まで笑っていたのに突然泣き出してしまうなどの情緒障害、温和だった方が怒りっぽくなる人格障害などがあります。

加えて、行動障害としては、窃盗を繰り返す、他人の家に勝手に上がるなど、社会生活の常識から逸脱した行動をとるようになります。

行動・心理症状

認知症の行動・心理症状とは、中核症状(記憶障害、見当識障害など)に併せて起こる症状です。日常生活における次のような症状が主で、すべての認知症のある方に必ず出現するものではありません。

不安・抑うつ

何かに不安を感じ、落ち着かない状態です。人ごみに出かけると過剰に緊張するため、家のなかに閉じこもりがちになります。

抑うつは、気持ちが落ち込みやる気が出ない状態です。感情が鈍くなり何に対しても興味を示さない、「家族のなかで自分が除け者にされている」などの否定的な感情が現れ落ち込むなどの症状が出ます。

徘徊

「徘徊」とは目的もなく周辺を歩き回ることを指します。傍から見れば目的がないように見えますが、ご本人にとっては目的のある行動である場合が多いです。具体的には、退職していることを忘れて出勤しようとする、必要がないのに夕飯の買い物へ出かけようとするなどです。
このような場合には、「もう退職したでしょ」などと事実を伝えて無理に止めようとするのではなく、ご本人の認識に合わせた声掛けをし、難しいようであれば安全に配慮しながら付き添って歩くことができれば理想的です。

妄想

本当は違うのに、ご本人にとって真実であると信じ込んでいる症状です。財布の置き場所を忘れて「財布を盗られた」と思い込むことなどがこれにあたります。妄想は、周囲の方がどれほど否定しても納得してもらうことが難しい場合が多いため、まずはご本人の話を聞いて落ち着いてもらったり、徐々に話題をそらせてたりするといいでしょう。

幻覚

現実にはないものが見えてしまったり、聞こえると訴える症状です。例えば、「部屋の隅に誰かが座っている」「子供の声がする」といったように、ご本人には本当にそこに人がいるように見えたり聞こえたりします。
誰もいない・聞こえないといったように否定はせずに、一緒に確認をしてもう大丈夫であると安心感を与えてあげることが大事です。

4.若年性認知症の検査方法

若年性認知症の疑いがあり受診する場合には、「神経内科」または「精神科(心療内科など)」を受診しましょう。受診すると、次の項目で診断・検査が行われます。

方法 内容
問診 ご本人またはご家族から、最初に気付いた症状、これまでの経過、他の疾患の有無、家族歴、服用している薬などの情報収集を行う
身体的検査 身体の状況の把握(血圧の測定、聴診、発語、聴力、麻痺の有無など)。認知症の原因となる病気や認知症に似た症状をおこす病気の有無を確認するために、内科的診察や血液検査などを行う
画像検査 MRIやSPECTを使って脳の画像を撮影し、画像診断(脳の萎縮の有無、脳血管の状態)を行う。また、脳血流シンチグラフィーを使って脳の血流の異常を検査する
神経心理学検査 HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(Mini Mental State Examination)を使って簡単な質問(現在の日時、今いる場所など)に対する答え、単純な作業(字を読む、図形を描くなど)の正確さやスピードをチェックする

5.若年性認知症は気づきにくい?

高齢者の認知症は加齢による物忘れに似ているので気づきにくいが、若年性認知症はすぐに発見できるのでは、と思われるかもしれません。
しかし、仕事の中で不調を感じていても、それが認知症によるものだと思い至らず、更年期障害やうつ病など別の病気と診断され、認知症が原因だと診断されるのが遅くなってしまうことがあります。
また、認知症の可能性が思い浮かんでも、認知症と診断されると仕事が続けられなくなるのではないか、といったことを恐れ、診断されることを避けてしまう場合もあります。

6.若年性認知症になった場合に使えるサポート

先述のとおり、若年性認知症は現役世代におこることが多いため、その方の状態や置かれている環境に応じて支援することが大切です。

ここでは、社会人として会社に勤務する方が認知症になったケースを想定して、利用できるサービス・制度をご紹介します。

最初の相談先

今後の生活については、受診した病院の医療ソーシャルワーカーに相談するのが最も良いでしょう。または、全国に設置されている地域包括支援センターでも構いません。同センターは、地域に住む方々が安心して生活を送るために相談にのり、さまざまな情報を提供してくれます。

介護保険サービス

若年性認知症の方も介護保険サービスを利用することができます。介護保険制度は65歳以上が対象だと思われがちですが、40歳以上の人でも「特定疾病」に該当すれば第2号被保険者として同サービスの利用が可能です。若年性認知症は「特定疾病」に該当するため、本人が要介護状態となれば、要介護認定の申請ののちに介護保険サービス(訪問介護、通所介護、施設への入居等)を利用できます。

就業支援(復職や再就職)

疾患や障害を抱えていても、自分らしい生活を送るために就業を希望する方もいます。復職や再就職を希望する場合には、次の機関に相談し復職・再就職を目指すと良いでしょう。

  • ハローワーク
  • 地域障害者職業センター
  • 障害者就業・生活支援センター ほか

経済的支援

若年性認知症が原因で生活困窮に陥ってしまうことを防ぐため、次のような支援制度を利用することができます。

制度 内容
傷病手当金
(医療保険)
若年性認知症によって仕事を休み、給料が貰えないといった場合に、現金を受給できる制度です。連続して4日以上仕事を休み、仕事に就くことができず、給料が支払われていないなどの条件を満たせば、最長1年6ヵ月まで現金給付を受けることができます。
高額療養費制度
(医療保険)
若年性認知症と判断され、通院や入院をし、一ヵ月の間で医療費が一定額を超えた場合、その超過分が医療保険で賄われる制度です。被保険者の医療費負担を軽減する仕組みの一つです。
障害年金
(年金保険)
病気によって障害を負ってしまった場合、判定された障害等級によって障害基礎年金または障害厚生年金を受給できる場合があります。
失業等給付
(雇用保険)
会社を退職したあと、ハローワークにて失業認定を受けて必要な手続きを行い、要件を満たせば、失業等給付を受けることができます。
生活福祉資金
貸付制度
障害を持つ方の生活を経済的に支えるとともに、その在宅福祉および社会参加の促進を図ることを目的に、現金を借り受けることができます。

7.若年性認知症になった場合の周囲の対応

若年性認知症と診断された場合、ご本人が診断自体をどのように理解し受け止めているかは人によって異なります。しかし、大きな負担を抱えていることに変わりはありません。これまで自立してできていたことができない、わかっていたことがわからない、経験したことを思い出せないなどといった状況に直面すると、ご本人だけでなくご家族も混乱の最中に置かれ、ついつい言葉が強くなってしまうこともあります。
病気を理解し、ご本人の状態を受け入れていくには時間がかかりますが、支えるご家族として次のような点に注意して対応することが求められます。

  • ご本人が安心でき、落ち着ける雰囲気・環境を作ってあげること
  • 何かを伝えるときには、具体的に伝えるとともに笑顔を心がける
  • ご本人のペースに合わせる、否定的な対応を避ける

もちろん、時間の経過とともに介護を必要とする状態となれば、支える側のご家族にとっては大きな負担が強いられ、次第にストレスが大きくなっていきます。ご家族だけで対応しようと頑張りすぎず、各都道府県に設置されている若年性認知症専門窓口に相談したり、最寄りの地域包括支援センターへ相談に行ったりして、無理をしないようにすることが大切です。

また、認知症家族の会などの任意団体に足を運び、同じような境遇の方と意見交換・交流するのも良いでしょう。

8.若年性認知症を予防するには

前述のとおり、若年性認知症のなかでもアルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症は詳しい原因がわかっていません。一方、脳血管性認知症の原因疾患は脳血管障害であるため、血圧のコントロールなどの予防が効果的です。

脳血管性認知症だけでなく、あらゆる認知症による認知機能低下の予防のためには、栄養状態の改善、定期的な運動のほか、積極的な社会参加が重要です。以下、一つずつ説明します。

栄養状態の改善

栄養バランスの取れた食事を心がけ、塩分や動物性脂肪、糖質(米、麺、パンなど)の摂り過ぎに十分に注意しましょう。適正な体重と体脂肪率を維持し、肥満を防ぐことも有効です。

また、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む青魚を摂るようにしましょう。加えて、βカロテンやビタミンC、ビタミンEなどを含む野菜や果物の摂取も認知症のリスクを軽減させます。

定期的な運動

定期的に運動する習慣を身に付けましょう。一回あたりの時間は短くても、毎日または2日に一回、決まった時間に行い習慣化させることが大切です。運動の強度は、自分自身が続けられる程度の無理のない適切な強度が良いでしょう。

生活習慣の見直し

いままでの生活習慣を見直してみましょう。油っぽいものや塩分は控える、野菜を多めに摂るなど、規則正しい生活を心がけ、過度な飲酒や喫煙も控えるようにしましょう。

9.若年性認知症は早期に発見し対策することが大事

これまで述べてきたとおり、若年性認知症は現役世代におこる認知症であるということを踏まえた社会的な支援が重要です。また、ご本人を支えるご家族へのケアも欠かすことはできません。

万が一、ご家族に若年性認知症が疑われた場合は、早期の発見・早期の治療が重要なのはいうまでもありません。また、診断を受けたら決して自分たちだけで抱え込むのではなく、前述の制度やサポートを受けながら、介護サービスなどの社会資源を有効に活用しましょう。

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監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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