認知症の人はどんな気持ち?介護で役に立つ心構えや原則を解説

認知症の方の介護をしていると、「認知症だとわかっていても、つい怒ってしまう」、「自分の親のことなのに、言動を受け入れられない」など、さまざまなことからストレスを感じるご家族も少なくありません。一緒に楽しく過ごしていた昔のことを思い出すと、心苦しくなることもあるでしょう。

今回は、認知症の方を介護するご家族の方に向けて、認知症の方の気持ちについて解説します。少しでも前向きに介護に取り組めるように、認知症の方との接し方や介護をするうえでの心得を理解していきましょう。

1.認知症の方の気持ちは健常者と同じ

認知症の方に対して、「認知症だから何を言ってもわからないだろう」、「信頼関係なんて築けるはずがない」と思われている方もいるかもしれません。しかし、認知症の方の気持ちは健常者の方と同じです。認知症の症状が出始めた時は、本人も不安や戸惑いがあることが多いです。今までできていたことができなくなって、助けてほしいと思っていても、恥ずかしくて頼みづらいと考えていることもあるかもしれません。
認知症の方もご家族の方も気持ちの良い関係でいるにはどうしたらよいのでしょうか?まずご家族の方に取り組んでいただきたいことは、次の2つです。

信頼関係を築く

本人が不安や戸惑いがある時に信頼できる家族や介護者が周囲にいたら、自分の気持ちを話しやすくなりますし、できないことも頼みやすくなります。「認知症の方だから」と特別視せずに、しっかり向き合って信頼関係を築くことが大切です。具体的には、本人のペースに合わせて予定を立てたり、自分で何かやろうとしている時や、迷っているとき・悩んでいるときなどは、一緒に不安に思っていることに対して寄り添ってあげたりするようにしましょう。また、本人に、なぜそのような行動をとろうと思ったのか聞いてみるなど、理解しようと心がけるのもよいでしょう。

相手の気持ちを尊重する

認知症の方も、失われていく記憶や能力に対して不安や悲しみを感じています。今までと違う状況に対して、ストレスを感じて怒りっぽくなる、イライラしてしまうのも無理のないことです。本人もそのように葛藤しているのに、周りの人に間違いを指摘されたり、怒られたりしたら、一層落ち込んでしまいます。認知症の症状や進行速度は人それぞれ違うため、目の前にいる方の現状を理解しようと心がけ、相手の気持ちを尊重することが大切です。
例えば、本人が何かを自分でやろうとしている時は見守り、急かさないようにします。環境を変えると不安になってしまうことがあるので、好きな音楽をかけたり、馴染みのある物を置いたりしてリラックスできるような環境づくりを心がけるのもよいでしょう。

2.認知症の方を介護する際に意識したい4つの心得

認知症の方の気持ちを理解できたとしても、やはり介護は一筋縄ではいきません。
認知症の方の介護は、長く続くことが多いため、介護する側もかんばり過ぎないことが大切です。

一人で抱え込まない

「他人に任せることに不安を感じる」、「家族が認知症ということを知られたくない」といった気持ちから、認知症の方の介護を一人きりで抱え込んでしまう方もいます。しかし、認知症の方の介護は容易ではありません。ご家族も今まで通りの生活ができなくなることがほとんどで、現実的に一人で対応するのは難しいでしょう。
一人で抱え込み過ぎないように、他のご家族と役割分担をしたり、介護保険サービスなど外部のサービスを利用したりするのもひとつの手段です。また、認知症の進行とともに、認知症の方もご家族も社会とのつながりが薄れていくことが多いといわれています。認知症の初期段階から、同じ悩みを共有できる仲間や、認知症の方の家族会などとつながりをもつように心がけるとよいでしょう。

他人と比べない

認知症の症状や進行速度は、人それぞれ違います。そのため、他の方と比べて落ち込む必要はありません。「同じ時期に発症している方よりも進行が進んでいる気がする」、「母の方が年齢は若いのに明らかに状態が悪い」など、他人と比べるとどうしても悪い部分に目がいき、これまで取り組んできた介護を否定してしまうことになりかねません。周りの方の意見を聞くことは大切ですが、他の認知症の方の状態とは比較せず、自分たちの状況を見て介護に取り組んでいきましょう。

ストレスを解消する

「介護はやりがいがある」、「今までの恩返しだから頑張ろう」と明るく前向きに介護をしようと努力される方が多いです。しかし、実際の介護は大変で、先が見えずに暗い気持ちになったり、認知症の方に対して嫌な感情を抱いたり、どうして自分ばかりと落ち込んで悲しくなったりすることがあります。きれいごとだけでは済まされないのが介護であり、介護者の方が不満や悲しみを感じるのは自然なことです。弱音や愚痴をため込まずに、なんでも話せる相談相手や場を作るようにしましょう。認知症の家族会などで、他の家族の状況を知るだけでも気持ちが楽になります。
「認知症の人と家族の会」のほか、認知症であるご本人やそのご家族、介護経験者、専門家など、様々な立場の方と交流できる会が開催されています。まずはご自身の地域で開催されているか、確認してみると良いでしよう。

がんばりすぎず、自分の時間も確保する

認知症の方の介護のために、最善の方法を調べて学び、熱心に向き合っているご家族は多くいらっしゃいます。しかし、介護について考えるあまり、自分自身を犠牲にして取り組まれることがあります。認知症とは長い付き合いになりますし、無理なく介護を続けるためにも介護者本人の時間や気持ちを大切にしなくてはいけません。
自分の時間を確保するために、レスパイトサービスを利用するのもおすすめです。レスパイトとは、休息や息抜きという意味を持ち、介護者が一時的に介護から解放され、リフレッシュする時間を持つことを指す言葉です。
具体的なレスパイトサービスの中で介護保険が適用されるサービスには、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどが挙げられます。入浴介護やリハビリテーションなど、部分的な介護を依頼することも可能です。自分の時間を確保するためにも、レスパイトサービスの利用を検討してみましょう。

3.認知症の方を介護する際の4つの原則

介護をおこなうときの心得を踏まえたうえで、認知症の方にどのように接したらよいでのしょうか?

発言を否定したり、叱ったりしない

認知症の方は、ご家族から見て物事を理解していないように見えても、周りの人の気持ちや状況を把握しているといわれています。
失われていく記憶や能力に悲しみを感じ、周囲の人の言動に以前より敏感になっていることもあります。
そして、本人も不安や戸惑いを感じているのに、家族や介護者から否定的な言葉を投げかけられたり注意をされたりすると不安が助長され、症状が悪化する可能性もあります。理解が難しかったり現実と違ったりすることでも否定せず、本人の言動をありのまま、一旦受け入れるなど、心に寄り添うことが大切です。
例えば、本人が悲しそうに話している時には一緒に悲しむようにして、「それは悲しかったですね」などと共感的な言葉をかけてみましょう。また、本人の意図をくみとるために、表情やしぐさなどを日頃からよく観察するとよいです。

その人に合ったコミュニケーション方法を工夫する

認知症の症状により、話の内容を理解するのが遅かったり、受け答えがうまくできなかったりすることがあります。基本的に、ゆっくりはっきりと、同じ目線で話すように心がけましょう。
相手の状況に合わせて、話すスピードを調整したり、静かな環境で話すように心がけたり、筆談にすることで、より円滑にコミュニケーションが取れる場合もあるかもしれません。言葉だけでなく、表情やスキンシップも心がけるとよいかもしれません。認知症の方の症状や状況は、一人ひとり違うので、その人に合ったコミュニケーション方法を工夫してみてください。

よいところを見つけて、自信を持ってもらえるよう心がける

認知症でなくても、他人から自分の存在を肯定されて、褒められると嬉しいものです。認知症の方の中には、失われていく記憶や能力に不安を感じ、自信をなくしてしまっている方も多いといわれています。ご家族や介護者が認知症の方のよいところを見つけることで、自信を取り戻して積極的に行動できるようになったり、自分に対する否定的な感情が改善すると考えられています。

相手を尊重する気持ちを忘れない

認知症の方に対して、わかりやすく話そうとすることは大切ですが、幼児言葉で話しかけることは避けましょう。幼児言葉で話しかけられると、認知症の方は馬鹿にされた、見下されていると感じてしまうことがあります。
認知症の方を介護する際には、その方の自尊心や個性を尊重することが大切です。
認知症の方は、自信を失っている場合も多いので、かけがえのない存在であることを感じてもらえるように接するようにしましょう。例えば、昔よく聞いていた音楽を聞いたり、思い出の写真や馴染みの物を見ながら昔の体験や思い出について話してみたりするのもよい方法と考えられています。
また、本人ができることはなるべく任せるようにすると、自尊心を保ちやすくなります。何か役割があったり、人の役に立ったりすることで生き生きとした生活を営むことができます。認知症になっても何もできなくなるわけではなく、体が覚えていることはできることも多いです。ケガや事故を恐れてできることまでも取り上げてしまうと、これまでできていたこともできなくなってしまう可能性があります。本人ができることは見守りながら任せてみることも大切です。

4.ご家族だけでの対応に不安を感じたら

認知症の方の介護は長期にわたることがほとんどで、家族だけで解決しようとすると負担が大きくなる場合があります。
自分たちだけで頑張ろうと抱え込んで家族が疲弊してしまうと、認知症の方ともよい関係が築けなくなり悪循環になる可能性があります。
認知症の方の介護で大切なのは、本人の気持ちを尊重することと、介護者の負担を減らすことです。
もしご家族だけでの対応に不安を感じたら、介護サービスの利用を検討するなど、周囲を頼るようにしましょう。認知症の症状や介護度にもよりますが、訪問介護やデイサービスなど自宅の生活を継続しながら受けられる介護サービスもありますし、近隣のショートステイや介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、グループホームを利用するのもひとつの手段です。
例えば、SOMPOケアの運営する介護付きホームやグループホーム、ケアハウスでは、認知症ケアに慣れたスタッフに見守られながら、他の入居者と生活して刺激を受けることができるので、認知症の方にとっても良い環境となっています。介護付きホームやグループホームでは短期間の利用(ショートステイ)ができるところもありますので、ご家族だけで抱え込まずに、是非一度相談してみてはいかがでしょうか?

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記事監修者:大塚真紀

【経歴】

都内の大学病院勤務を経て、現在はアメリカ在住。育児のかたわら、医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作のほか、認知症の患者さんの診療経験を活かし、認知症に関する記事執筆や監修、最新の医学論文の翻訳なども行っています。認知症患者さんと介護者の方の負担が、少しでも軽くなるようにお役に立てればと考えています。

【保有資格】

医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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