2024年の改正で介護保険法はどう変わった?これまでの改正の流れやポイントについて

介護保険法は、要介護状態となった方たちを社会的にどのように支えるのか、その仕組み・ルールを定めた法律です。介護保険制度のなかで提供される介護サービスやその他の保険給付は、この介護保険法に則って運用されています。

この記事では、介護保険法の概要を説明したうえで、同法が施行される前の問題点や、これまでの制度改正の内容を解説します。また、2024年における改正のポイントもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

1. 介護保険法とは?

介護保険法とは、介護保険制度の仕組みやルールを法律として定めたものです。介護保険制度は社会保険制度の一つで、介護を必要とする状態になっても安心して社会で生活を送ることができるよう、社会全体で支える仕組みです。

創設された背景

介護保険制度が導入されるまでは、老人福祉法・老人保健法によって高齢者の保健・福祉が展開されていました。しかし、それぞれが次のような構造的な問題を抱えていたことから、1990年代半ばから制度の抜本的な改革が求められるようになりました。

老人福祉法の問題点 ・市町村がサービスの種類、提供機関を決めるため、利用者はサービスを選択できない ・所得調査が必要なため、利用にあたって心理的抵抗感が伴う ・市町村が直接あるいは委託により提供するサービスが基本であるため、競争原理が働かず、サービス内容が画一的となりがち ・本人と扶養義務者の収入に応じた利用者負担(応能負担)となるため、中高所得層にとって負担が重い
老人保健法の問題点 ・中高所得者層にとって利用者負担が福祉サービスより低く、また、福祉サービスの基盤整備が不十分であったため、介護を理由とする一般病院への長期入院(いわゆる社会的入院)の問題が発生 ・社会的入院は、特別養護老人ホームや老人保健施設に比べてコストが高く、医療費が増加 ・治療を目的とする病院では、スタッフや生活環境の面で、介護を要する者が長期に療養する場としての体制が不十分(居室面積が狭い、食堂や風呂がないなど)

このような問題点をふまえ、1994年に旧厚生省に設置された高齢者介護・自立支援システム研究会が「新たな高齢者介護システムの構築を目指して」のなかで、社会保険方式による高齢者介護システムの創設を提案。それをもとに1997年に介護保険法が制定されました(法施行は2000年)。

3年ごとに改正される理由

介護保険制度は、3年を1期とする介護保険事業計画に合わせて制度改正が行われます。背景には、少子高齢化が進んでいることや、介護需要の高まり、介護期間の長期化、ご利用者のニーズの複雑化などがあり、現状に合わせて制度内容をアップデートさせる必要があるためです。

同制度のスタート当初は要介護高齢者の増加が予想されていましたが、実際は要支援高齢者の増加が割合として多く、介護予防サービスの充実化が求められるようになり、2005年の制度改正によって介護予防を重視した給付体系となりました(これまでの制度改正の詳細は後述)。

2. 老人福祉法・老人保健法との違い

介護保険制度が創設されるまで、高齢者に介護サービスを提供する制度としては、老人福祉法に基づく措置制度と、老人保健法に基づく看護・介護を提供する仕組みの2つが存在していました。

老人福祉法の特徴

  • 財源は公費
  • 行政による措置によって福祉サービスが決定・提供
  • 特別養護老人ホームや軽費老人ホームなどの老人福祉施設を定める、人員配置基準や設備およ及び運営に関する基準を規定する
  • 老人居宅生活支援事業として、訪問介護、通所介護、福祉用具給付など、サービスの種類や基準を規定する
  • 利用した介護サービスの費用は応能負担 など

老人保健法の特徴

  • 実施主体は市町村
  • 財源は医療保険料と公費
  • 70歳以上の老人に提供される医療、40歳以上の方に提供される保健サービスの種類・内容を規定する
  • 老人保健施設、療養型病床群などの老人福祉・保健施設を定め、人員配置基準や設備およ及び運営に関する基準を規定する など

この2つの法律によって提供される介護保障システムのままでは高まる介護需要に対応するのは困難であることから、これらの制度を再編・統合し、一つの介護保障制度として誕生したのが介護保険制度です。

介護保険法の特徴

  • 財源は介護保険料と公費
  • ご利用者が主体的にサービスを選択し、契約する
  • 介護老人福祉施設、介護老人保健施設などの介護保険施設を定める
  • 訪問介護、通所介護、訪問看護、福祉用具貸与・販売などのサービスを定める
  • 利用した介護サービスの費用は、応益負担
  • ケアマネジメントの導入
  • 民間企業の参入で競争原理を促進し、サービスの質的向上を図る など

これまでの老人福祉法・老人保健法による高齢者保健福祉に関する施策は、介護保険制度(介護保険法)の登場によって、一元的に仕組み・ルールを定め提供されるようになりました。

3. 介護保険制度の仕組み

介護保険制度は、要介護者を社会全体で支えることを目的に2000年にスタートしました。介護の社会化を基本理念として、これまで各家庭が担ってきた高齢者の介護を国民全体でわかち合い、支え合う制度となっています。以下、詳しく見ていきましょう。

介護保険制度の対象者

介護保険制度では、保険に加入する対象者を被保険者といいます。被保険者は、介護保険制度に加入しサービスを利用する権利を持つ一方で、介護保険料を支払う義務が課せられます。

介護保険制度では、以下の2種類の被保険者が定められています。
被保険者の種類 対象
第一号 被保険者 65歳以上で市区町村に住所を有する者
第二号 被保険者 40歳から65歳未満の者で市区町村に住所を有し、公的医療保険に加入する者

介護保険料の支払い

被保険者が支払う介護保険料は次のように決められ、負担します。

被保険者の種類 内容
第一号 被保険者 市区町村ごとに介護保険料が決められ、前年度の所得に応じて負担額が異なる。支給される年金額が一定額以上の方は年金から天引きされる。
第二号 被保険者 厚生労働省が全国平均の1人あたりの負担額を計算し、その負担額に基づいて、医療保険の保険者が介護保険料を決定する。医療保険の保険者が医療保険料と合わせて徴集する。

なお、介護保険料を滞納すると、滞納した期間によって保険給付が償還払い(利用したサービス費用を被保険者が全額負担し、その後、申請に基づいて自己負担分を除いた金額が返還されること)となったり、延滞金が発生したりしますので注意しましょう。

対象となる疾病

第二号被保険者は、次の特定疾病に罹患して要支援状態、または要介護状態と判定されなければ、介護保険サービスを利用することができません。特定疾病は次の16種類です。

  1. がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症
  12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

4. 介護サービスの指定制度

介護保険サービスを提供する事業者は、あらかじめ都道府県・市町村へ申請し、指定または許可を受けなければなりません。以下、種類ごとに整理します。

種類 事業内容 指定・許可
居宅サービス事業者 訪問介護、通所介護などのサービスを提供する者 都道府県が指定
地域密着型サービス事業者 小規模多機能型居宅介護、グループホームなどのサービスを提供する者 市町村が指定
居宅介護支援事業者 自宅で生活する要介護1以上の方のケアプランを作成する者 市町村が指定
介護予防サービス事業者 要支援1・2の方を対象にした通所リハビリテーションや、訪問入浴介護などを提供する者 都道府県が指定
地域密着型介護予防サービス事業者 要支援1・2の方を対象にした認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)や、介護予防小規模多機能型居宅介護のサービスを提供する者 市町村が指定
介護予防支援事業者 要支援1・2の方のケアプランを作成する者 市町村が指定

5. 介護保険法で定められている介護保険施設

介護保険法では、施設サービスとして3種類の介護保険施設を定めています。以下の3施設は、自宅で生活することが困難な要介護者が入居する公的な施設です。

種類 概要
指定介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム) 自宅での生活が困難になった方で要介護3以上の方が入居し、食事、入浴、排泄など、日常生活の支援を受けられる施設。終末期介護を提供できる施設が多く、最期を迎えるまで入居することが可能
介護老人保健施設 急性期の治療が終わり、今後は回復期でのリハビリテーションを中心とした生活に移行する高齢者が入居する施設。医療的ケアやリハビリテーションを必要とする高齢者が入居し、日常生活上の介護を受けながら自宅復帰を目指す点に特徴がある
介護医療院 重度の要介護高齢者で、医療的管理とリハビリテーションを必要とする方が入居する施設。医師が常駐しているため、手厚い医療ケアが受けられる点に特徴がある。重度の身体疾患・疾病を抱える方や、それに加えて重度の認知症を抱える高齢者が入居するⅠ型と、Ⅰ型のご利用者よりも比較的安定した状態の方が入居するⅡ型とに分かれている

6. 介護保険法の改正の流れ

介護保険制度は2000年にスタートしましたが、これまで何度も改正されてきました。ここでは、今までの制度改正のなかで主要なものをピックアップして解説します。

2006年(2005年の制度改正)

要介護認定を受ける高齢者(特に軽度者)の増加にともなって保険給付額が増大したため、次の改正が行われました。

  • 予防重視型システムへの転換
  • 地域包括支援センターの創設
  • 地域密着型サービスの創設
  • 介護サービス情報の公表 など

2009年(2008年の制度改正)

当時、介護業界に参入し主に訪問介護サービスを提供していた民間企業が、介護報酬の不正請求や虚偽の指定申請を繰り返していたことが明らかになりました。このことから、介護サービス事業者による不正を防止し、介護事業運営の適正化を図る観点から、次の改正が行われました。

  • 介護サービス事業者の法令遵守などの業務管理体制整備
  • 指定・更新の欠格事由の見直し
  • 休止・廃止時のサービス確保の義務化 など

2012年(2011年の制度改正)

介護保険制度の登場によってご家族の介護負担はある程度軽減されたものの、地域全体で支える体制(保健、医療、介護の包括的体制)が不十分であることから、次の改正が行われました。

  • 地域包括ケアの推進
  • 24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設
  • 介護予防・日常生活支援総合事業の創設
  • 医療的ケア(介護職員によるたんの吸引など)の制度化
  • 高齢者の住まい整備(サ高住の創設) など

2015年(2014年の制度改正)

2012年の社会保障と税の一体改革に基づき、費用負担の公平化を目指して次の改正が行われました。

  • 地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実
  • 予防給付(訪問介護、通所介護)を地域支援事業へ移行
  • 低所得者の保険料軽減を拡充
  • 自己負担額割合に2割を導入 など

2018年(2017年の制度改正)

保険者である市町村の取組みを推進して地域包括ケアシステムの強化を図るとともに、介護保険制度の持続可能性を高めるため、次の改正が行われました。

  • 自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化
  • 介護医療院の創設
  • 共生型サービス(介護保険制度と障がい者福祉制度にまたがるサービス)の創設
  • 自己負割合に3割を導入 など

2021年(2020年の制度改正)

地域住民のニーズが複雑化・複合化している現状に対応できるようにするため、包括的なサービスの提供体制を整備することを狙いとして、次の改正が行われました。

  • 市町村の包括的な支援体制の構築の支援
  • 地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制整備の推進
  • 医療・介護のデータ基盤の整備の推進 など

あらためて、以下の表にこれまでの改正をまとめました。

改正の内容
2006年施行 (2005年の改正) ・予防重視型システムへの転換 ・地域包括支援センターの創設 ・地域密着型サービスの創設 ・介護サービス情報の公表 など
2009年施行 (2008年の改正) ・介護サービス事業者の法令遵守などの業務管理体制整備 ・指定・更新の欠格事由の見直し ・休止・廃止時のサービス確保の義務化など
2012年施行 (2011年の改正) ・地域包括ケアの推進 ・24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設 ・介護予防・日常生活支援総合事業の創設 ・医療的ケア(介護職員によるたんの吸引など)の制度化 ・高齢者の住まい整備(サ高住の創設) など
2015年施行 (2014年の改正) ・地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実 ・予防給付(訪問介護、通所介護)を地域支援事業へ移行 ・低所得者の保険料軽減を拡充 ・自己負担額割合に2割を導入 など
2018年施行 (2017年の改正) ・自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化 ・介護医療院の創設 ・共生型サービス(介護保険制度と障がい者福祉制度にまたがるサービス)の創設 ・自己負割合に3割を導入 など
2021年施行 (2020年の改正) ・市町村の包括的な支援体制の構築の支援 ・地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制整備の推進 ・医療・介護のデータ基盤の整備の推進 など

時代にあわせて改正される介護保険法についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

【2021年4月施行】時代にあわせて改正される介護保険法について解説

7.【2024年】介護保険法の改正ポイント

ご紹介したとおり、これまで改正を重ねてきた介護保険法ですが、2024年に改正介護保険法が施行されました。2024年の改正はどのような内容なのでしょうか。厚生労働省が示す資料を参考にしながら、ポイントを整理して解説します。

地域包括ケアシステムの深化・推進

認知症のある方や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組みの推進が強化されました。

自立支援・重度化防止を重視した介護サービスの推進

高齢者の自立支援・重度化防止という制度の趣旨に沿い、多職種連携やデータの活用などを推進するため、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組みが強化されました。

良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり

介護人材不足のなかで更なる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の健全化に向けた先進的な取組みの推進が強化されました。なかでも、介護スタッフの負担軽減やICT化の促進を図るために、生産性向上推進体制加算が新設された点は注目したいポイントです。

制度の安定性・持続可能性の確保

介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、すべての世代にとって安心できる制度を構築するため、評価の適正化・重点化や、報酬の整理・簡素化が図られました。

基本報酬の見直し

基本報酬が見直され、改定率は全体で+1.59%(国費432億円)の引き上げとなりました。1.59%のうち、介護スタッフの処遇改善が0.98%、その他の改定が0.61%となっています。

主に、介護現場で働く方々の処遇改善・賃上げを行えるようにすること、提供されるサービスごとの経営状況の違いも踏まえたメリハリのある対応を行うことを狙いとしています。

8. 介護保険法について把握しておくことが大事

介護保険法はこれまで、介護現場を取り巻く現状や課題に対応する形で改正されてきましたが、制度改正は介護サービスの内容や提供方法に関連するため、介護サービスを利用する側もある程度は把握しておくことが大切です。

2024年の改正では、ケアプラン作成の有料化や自己負担額2割の対象者拡大は見送られました。これらは、介護保険制度の安定的な制度運営や持続可能性を高めるためには避けて通れない課題です。しかし、実現にあたってはサービスの利用控えを招く懸念などがあるため、これらを払拭する対策は欠かすことはできません。 国・厚生労働省が今後、どのような舵取りをするのか、引き続き介護保険法の動向に注目していきましょう。

監修・執筆

林 修造

福祉系専門学校の教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や医療保険などの社会保障にも精通している。専門学校で教鞭を取る傍ら、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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