【2021年4月施行】時代にあわせて改正される介護保険法について解説

介護を必要とする方が個人の尊厳を保持しながら、持てる能力に応じて自立した日常生活を送れるように制定された介護保険法。2000年に施行されたのち、時代にあわせ改正されていることをご存じでしょうか?
本記事では、介護保険法の改正が介護を受ける方にどのような変化をもたらすのか、詳しくご紹介します。

1. 介護保険法について

介護保険法とは、介護を必要とする65歳以上の高齢者や、40歳以上65歳未満で特定疾病を抱え介護が必要な方を、社会全体で支えるためにできた「介護保険制度」をより健全に運用するための基準として定められた法律です。この法律が成立した背景と、今回の改正のポイントをご紹介します。

介護保険制度の成立の背景

  • 1963年 老人福祉法の制定
  • 目的:高齢者が心身の健康を保持し日常生活を安定して営めるように、高齢者福祉の機関や施設、事業のルールを制定

    課題:1970年以降高齢化が急速に進み、認知症高齢者の増加や家庭内での介護負担が増大する一方、サービスの種類や提供機関の決定は市町村にあり、利用者が選択できない。

  • 1982年 老人保健法の制定
  • 目的:高齢者医療費の一部自己負担・老後の健康保持と適切な医療確保や、疾病予防から治療、リハビリテーションなどの総合的な保険利用サービスを提供するため

    課題: 介護を理由とする長期入院 (社会的入院 )による医療費の社会的負担が増大。一方で、トイレやお風呂などの生活環境やスタッフ体制に課題があり、長期療養する場として不十分である。

日本の介護に関する法律はこのような歩みを辿ってきました。
しかし、既存の法律や制度では年々進む少子高齢化に伴う問題に対応しきれず、新たな法整備が必要でした。そこで成立したのが、介護保険法に基づく介護保険制度です。従来制度の問題点に対応していくことで、より時代に合った介護サービスを提供できるようになりました。

項目 老人福祉法 老人保健法 2000年 介護保険法
サービスの選択権利 行政窓口に申請し市町村がサービスを決定 利用者が自らサービスの種類や事業者を選んで利用
医療と福祉の利用 医療と福祉に別々に申し込み 介護サービスの利用計画 (ケアプラン) に基づき、 医療・福祉のサービスを総合的に利用
サービス供給主体 市町村や公的な団体中心のサービスの提供 多様な事業者によるサービスの提供
利用者の負担 中高所得者にとって利用者負担が重い 所得にかかわらず1割の自己負担
※法施行時のもの
現在は所得に応じて1~3割の自己負担

【介護保険法改正のポイント】2021年4月施行の5項目

ライフスタイルが多様化する現代、介護を必要とする背景にもあらゆるパターンが想定されます。2021年4月施行の介護保険法では、次の5項目が大きな改正ポイントです。

  1. 地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する
    市町村の包括的な支援体制の構築の支援
  2. 地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進
  3. 医療・介護のデータ基盤の整備の推進
  4. 介護人材確保及び業務効率化の取組の強化
  5. 社会福祉連携推進法人制度の創設

2. 【介護保険サービス利用者向け】2021年施行のポイントを解説

介護保険サービスを利用する方に特に影響のあるポイントは2つ。地域包括ケアシステムの推進と福祉用具の上限設定です。以下で詳しくみていきましょう。

地域包括ケアシステムの推進と支援

2014年頃から推進が叫ばれるようになった地域包括ケアシステム。
「住み慣れた地域を離れたくない」「自宅で最期を迎えたい」という想いを抱えている高齢者の尊厳を守り、人生の最後まで自分らしい暮らしができるよう、地域のなかで行う支援、サービスを一体的に提供する体制です。

福祉用具のレンタル価格を適正化

介護を必要とする方にとって車椅子や歩行器といった福祉用具は、生活を支える大事なパートナーです。介護保険制度では、福祉用具の貸与サービスが提供されています。

福祉用具について、詳しくはこちらをご覧ください。

福祉用具の平均価格の公表と上限設定

福祉用具貸与は、同じ商品でも事業者によって価格に差がありました。この問題を解決するため2018年の改正では、次の2つの体制が施行されています。

  • 全国の平均的な貸与価格を公表
     福祉用具専門員はこれをもとに、利用者への説明を義務付け
  • 貸与価格の上限を設定

今回の改正では、新商品について3ヶ月に1度の頻度で全国平均貸与価格の公表や上限価格を設けることが決定しています。

時代に合った介護報酬改定

社会を取り巻く事情も年々変化しますが、それと同時に物価やお金の流れも目まぐるしく変わっていきます。介護保険法の改定と同じく、介護報酬も約3年に1度のペースで、時代に合わせた改定が行われています。

高額介護サービス費支給制度の上限見直し

介護サービスを利用したくても、高額な利用料が心配で一歩を踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。こうした介護利用者の金銭的負担を軽減する政策が、高額介護サービス費支給制度です。

【高額介護サービス費支給制度とは】

介護サービスを利用するとき発生する金額には上限が設定されています。月の支払い金額が上限を上回る場合に、越えた分が払い戻される仕組みを高額介護サービス費支給制度といいます。世帯のどなたかが市区町村民税を課税されている方や、生活保護を受給している方が対象となります。

2021年4月の施行では、これまで一律44,400円だった市区町村民税課税世帯(ご本人または世帯全員)に対する自己負担限度額の上限が以下のように見直されます。社会保障制度をより持続可能な制度にしていくため、一定以上の年収がある世帯に対して自己負担額が増加することになりました。

負担段階区分 これまで 2021年4月 改正後
年収約383万円~約770万円未満 44,400円 44,400円(据え置き)
年収770万円以上 44,400円 93,000円
年収約1,160万円以上 140,100円

3. まとめ

時代に合った介護ニーズに合わせて改正されてきた、介護保険法。その目的は、介護や支援を必要とする人々が、自分らしく豊かに生活するためのものです。

そして、2021年4月。近年目まぐるしく変化する社会情勢に合わせ、より暮らしやすく快適な福祉環境を目指した改正介護保険法が施行されます。

介護や支援を必要とする方、そしてその方を支えるご家族や介護サービス提供者にとって、より豊かな日常生活が送れるのではないでしょうか。

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