老老介護とは、介護をする側・受ける側の双方が65歳以上の高齢者である状態を指します。主に夫婦や親子、きょうだいなどの関係で、ともに高齢でありながら、どちらかが要介護状態で、もう一方が介護をするケースです。
老老介護は、介護をする側・受ける側のどちらも健康の維持が困難な状況に陥ってしまうリスクが懸念されます。しかし、適切な介護サービスを利用すればこのリスクを軽減できます。
この記事では、老老介護の現状や問題点を解説するとともに、老老介護を防止するために利用したい相談窓口や介護サービスをご紹介します。
老老介護とは、家庭内で高齢者が、高齢者を介護する状態を指します。次のようなケースが想定されます。
また、似たような言葉に「認認介護」があります。認認介護とは、認知症のある方が認知症のご家族などを介護している状態のことです。老老介護の状態にある世帯において、介護をする側・受ける側がともに認知症を発症し、これが進行すると、ADL(日常生活動作)の低下に繋がり、自宅での生活がより困難な状況に陥ってしまう恐れがあります。
老老介護の現状はどのようになっているのでしょうか。以下、国の発表した統計データなどから見てみましょう。
厚生労働省が実施した「令和4年 国民生活基礎調査の概況」によれば、「要介護者等」と「同居の主な介護者」の年齢の組み合わせをみると、60歳以上同士の割合は77.1%、65歳以上同士は63.5%、75歳以上同士は35.7%となっており、年次推移でみると、いずれも上昇傾向となっていることがわかります。
内閣府の発表した「令和3年版高齢社会白書(全体版)」によると、要介護状態に至る原因で最も多いのは認知症であることが明らかになっています。加齢にともない認知症になる可能性も高くなることから、老老介護の増加は認認介護の増加に繋がっていき、やがて社会的な孤立にも繋がる恐れがあると懸念されています。
2025年には団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になることから、高齢世帯における老老介護は今後も増加が見込まれ、対策の強化が急務であるとの指摘があります。
厚生労働省の委託調査では、老老介護に関して、市区町村の77.3%が「介護する家族自身も認知症などで支援が必要」、つまり介護する側に対しても支援の必要性があることが明らかになっています。
(出典:「老老介護、「家族も支援必要」77% 市区町村調査」日本経済新聞 (2023年5月27日)
これらをまとめると、老老介護は今後も増加が見込まれており、介護をする側・受ける側、双方に適切な支援が求められています。
老々介護の割合が増加している要因はどこにあるのでしょうか。国の統計調査をもとに、その背景・原因を探ってみます。
老老介護が増加している最も大きな原因は、日本人の寿命が延びていることと、健康寿命と平均寿命の差が埋まらないことにあります。
厚生労働省が発表した「令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」によると、我が国の健康寿命は延びているものの、平均寿命も延びているため、その差が埋まっていないのが現状です。健康寿命と平均寿命の差(男性が8.73年・女性が12.07年)はそのまま介護を必要とする年数を指すものであり、その長期化が老老介護増加の一つの原因であるといえるでしょう。
次に挙げられる原因は、高齢者世帯と核家族世帯の増加です。前出の「令和4年 国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、全体の半数以上が高齢者のみの世帯となっています。そのうち夫婦のみの世帯は32.1%となっており、こういった世帯では若い世代のご家族と同居しておらず、要介護状態になっても支援が得られにくい状況であると見ることができます。
高齢者世帯のなかには、介護サービス費の捻出が難しい世帯があります。内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書(全体版)」では、高齢者世帯のうち、公的年金・恩給※が家計収入のすべてとなっている世帯は約半数となっています。
また、高齢者世帯の経済的な暮らし向きに関しては、「家計にゆとりがなく多少心配である」と「家計が苦しく非常に心配である」と回答した割合が30%以上となっており、およそ3人に一人が経済的に余裕のない状況です。
このようななか、年金だけでは介護サービス費の捻出が難しく、結果として介護サービスを利用できずに、老老介護とならざるを得ない方もいるのが現状です。
※公務員が公務のために死亡した場合、公務による傷病のために退職した場合、相当年限忠実に勤務して退職した場合において、国家に身体、生命を捧げて尽くすべき関係にあった、これらの者及びその遺族の生活の支えとして給付される国家補償を基本とする年金制度。
高齢者世帯のなかには、ご本人またはご家族が認知症などのため、介護保険や生活保護などの行政サービスを理解できない場合があるほか、これらの行政サービスを拒否するケースもあります。
健康状態に問題がある、生活が困窮しているなどの状況にも関わらず、介護保険や生活保護などの必要な行政サービスを受けず、ご家族や地域社会との接触もほとんどないなど、社会から孤立している世帯があることも指摘されています。
プライベートな問題や介護の問題を友人や知人に相談するのは、ただでさえ気が引けます。また、周りに迷惑をかけたくない、行政の世話になりたくないなどの理由で相談せず、結果として老老介護の状態になっているケースもあります。
老老介護はどのような点に問題があり、どのようなリスクに繋がる恐れがあるのでしょうか。詳しく説明していきます。
老老介護は、介護者自身も加齢によって体力が衰えているため、介護する側の負担が大きくなりがちです。また、介護に時間がかかってしまい、結果として介護を受ける側の身体的負担も大きくなります。要介護状態が重度になればなるほど、お互いに精神的・身体的な負担が増加してしまいます。
高齢になると退職などで生活に変化が生じたり、体力・気力などが低下したりすることで、社会との接点が薄れ他者との交流が減る傾向にあります。
また、介護には労力と時間がかかるため、日常生活の多くの時間が奪われてしまい、外出や交流の機会を充分に持てないことも考えられます。
そのようなことから周囲や地域社会との接点がさらに乏しくなってしまい、ますます支援の手が差し伸べられない状況に陥ってしまいます。
高齢者世帯が社会から孤立し必要な支援が受けられない場合、要介護状態が重度化してしまい、介護する側の精神的・身体的負担が増えていくことで、介護放棄などの高齢者虐待に繋がるケースもあります。
実際、青森県が発表した「高齢者虐待防止・支援マニュアル」では、老老介護であるうえ信頼できる親族関係もなく、介護するご家族が虐待してしまったケースが紹介されています。
では、老老介護にならないための具体的な対策にはどのようなものがあるのでしょうか。事態が深刻になる前に実践できる対処法をご紹介します。
まずは、高齢になっても毎日を健康的に過ごそうとする心がけが大切です。心身機能をできるだけ落とさず、維持できるよう、栄養バランスの取れた食事、定期的な運動の実施、良質な睡眠を取るなど、日頃からできることを実践しましょう。特に高齢になると、食欲が湧かなかったり、調理の手間を面倒に感じたり、飲み込む力が 低下することによって食べる量が減ったりします。その結果として低栄養状態に陥りやすいので、手軽に栄養を摂取できる市販の介護食なども上手に活用することをおすすめします。
SOMPOケアでは、ご利用者様の「噛む力」や「飲み込む力」に合わせて4つの食形態から選べる冷凍惣菜「食楽膳」を提供しています。
詳しくは下記ページをご覧ください。
もし家庭内で介護のお困り事などが発生した場合、決して自分たちだけで抱え込まず、地域に設置されている介護・福祉の相談窓口を利用するようにしましょう。以下のような機関では無料で相談に応じています。
これらの相談機関では、介護サービスの利用にともなって発生する費用負担を、世帯の収入に応じて軽減する方法・制度も紹介してくれます。
地域包括支援センターに関して詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
ご家族が要支援状態または要介護状態になった場合には、さまざまな介護サービスが利用できます。具体的なサービス内容は以下のとおりです。
種類 | 主なサービス |
---|---|
自宅で生活しながら利用できるサービス | 訪問介護、訪問看護、訪問入浴、訪問リハビリテーション、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーションなど |
自宅での生活を便利にするサービス | 福祉用具のレンタル・購入、住宅改修 |
一時的に施設へ入居するサービス | 短期入所生活介護(ショートステイ)など |
施設に入居して介護を受けるサービス | 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など |
上記のようなサービスを適切に利用すれば、精神的・身体的負担を軽減し、深刻な状態を回避できるでしょう。
もちろん、人の手を借りて介護をすることに抵抗がある方もいらっしゃると思います。しかし、介護サービス事業者は介護のプロなので、サービスを利用することで介護をする側・受ける側の精神的・身体的負担が減り、双方が望む生活に近づくことができるかもしれません。
どうしても介護サービスの利用に抵抗がある方は、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターに相談したり、福祉用具をレンタルしたりすることから始めてみると良いでしょう。
なお、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、施設によっては二人揃っての入居も可能です。どのサービスが自分に合っているのか、利用できるのかがわからない場合は、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所へ相談することをおすすめします。
各サービスの詳細は以下の各記事をご覧ください。
ご家族が要介護状態になったときに備えて、あらかじめご家族で話し合っておくことも重要です。
介護を受ける側としては、「できるだけ住み慣れた自宅で生活したい」「場合によっては子供と同居して生活したい」などの希望がある一方、介護する側としては「要介護状態になれば必要に応じて同居する」や「生活拠点が別なので同居せずに遠距離介護で支えたい」「施設に入居すれば安心」という希望があるでしょう。万が一の事態に備え、こうした考えをすり合わせ、介護をする側・受ける側ともに共通認識を持っておくことをおすすめします。
ご家族の状況や、プライベートなことを第三者へ相談しにくい気持ちなどから、老老介護をせざるを得ない場合もあるかと思います。しかし、老老介護が長期化すると、介護をする側・受ける側ともに精神的・身体的な負担が大きくなり、結果として介護放棄や虐待などに繋がってしまうリスクがあります。
このようなリスクを避けるためにも、介護についての不安やお困り事がある場合、なるべく早めに地域包括支援センターなどの専門機関に相談しましょう。現在の状況で利用可能な介護サービス機関に繋げてくれるとともに、介護サービスの利用に経済的な心配があれば、その負担軽減のための制度も紹介してくれます。
家庭内などで介護の悩みや問題が生じた場合、決して自分たちだけで抱え込まず、専門機関に相談することを強くおすすめします。事態が深刻化する前に、まずは身近な人に相談することから始めてみるとよいでしょう。
また、SOMPOケアでは介護に関するお悩み・ご相談を受け付ける介護なんでも相談室を設けています。自宅での生活に不安があり、介護に関するお悩みを抱えている方は、お気軽にお問い合わせください。
お電話から:0120-37-1865(フリーダイヤル)
現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。
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