介護休暇の取得可能日数や取得手段、介護休業との違い

ご家族の介護と仕事の両立が難しく、仕事を辞めざるをえない方は少なくありません。厚生労働省が発表した「令和4年就業構造基本調査」では、介護や看護を理由に離職(以下、介護離職)した方は2022年では10万人以上いるとされています。今後、高齢化がますます進むなかで、介護離職はより一層増加するものと見込まれます。

ご家族の介護があっても、仕事を続けるために利用したいのが介護休暇です。介護休暇とは、労働者がご家族などの短期的な介護を理由として仕事を休むことができる制度です。、介護保険サービスと組み合わせて活用することで、仕事と介護の両立がしやすくなります。

この記事では、介護休暇の概要、取得可能日数や取得するための手段を説明するとともに、介護休業との違いを解説します。

1.介護休暇とは

介護休暇は育児・介護休業法によって定められている休暇で、ご家族などの介護やお世話を理由に短期的に仕事を休むことができる制度です。

以下、総務省の「介護休暇等に関する参考資料」を参考に、介護休暇で取得できる日数や適用対象の労働者などについて解説します。

ご家族などの介護を目的に休暇を取得できる制度

介護休暇は、要介護状態にあるご家族の突発的・短期的な介護のために取ることができる休暇です。介護をしながら働き続けるための権利として位置づけられており、介護離職を防ぐ狙いがあります。

また、対象家族に対する身体介護(食事、入浴、排泄などの介助)だけでなく、次のような理由でも取得が可能です。

  • 介護保険に関わる手続き
  • 介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)との打ち合わせ
  • ご家族の通院の付き添い、送迎など

取得できる日数や単位など

介護休暇で取得できる日数は、次のとおりです。

【取得できる日数】

対象家族の人数 取得可能日数
1人 年間5日まで
2人 年間10日まで

【取得単位】
取得は1日単位、時間単位で取ることができます。

適用労働者

介護休暇が取得できるのは、原則として対象家族を介護する労働者となります。ただし、次のような労働者は対象となりません。

  • 日々雇用される者
  • 労使協定が締結され介護休暇の取得に制限が設けられている労働者(入社6ヵ月未満、1週間の所定労働日数が2日以下など)。

対象家族

対象となる家族(被介護者)の範囲は次のとおりです。同居・別居は問いません。

  • 配偶者(事実婚でも可)
  • 父母(養父母を含む)
  • 子(養子を含む)
  • 配偶者の父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹

上記以外の家族・親族(叔父・叔母、甥・姪、いとこなど)は介護休暇取得の対象とはなりません。
なお、この制度での要介護状態とは「怪我や病気などで2週間以上の期間にわたり常時介護が必要な状態」とされています。つまり、対象家族が要介護認定を受けているかどうかは問われないため、非常に使いやすい制度であるといえます。

2.介護休暇の申請手段

介護休暇を取得するには、事業主への申請が必要です。申出の手段は法律上の定めがありませんので、口頭でも申請できます。ただし、勤務先が介護休暇申出書などの様式を設けている場合もありますので、担当部署にあらかじめ確認を取りましょう。

申請時には、次の事項を事業主に申し出なければなりません。

  • 介護休暇申出をする労働者の氏名
  • 介護休暇申出に係る対象家族の氏名および労働者との続柄
  • 介護休暇を取得する年月日
  • 介護休暇申出に係る対象家族が要介護状態にある事実

申出を受けた事業主は、締結した労使協定などによって拒むことのできる労働者でない限り、原則としてこれを拒否したり、期間を変更したりすることはできません。

3.介護休暇取得中に給料は発生する?

介護休暇中は給料が発生しません。介護休暇は文字通り休暇であるため原則無給です。ただし、勤務先が設ける就業規則・福利厚生の制度によっては給料が発生する場合もありますが、数としては少ないでしょう。

休暇中も給料が必要な場合は、介護休暇ではなく有給休暇を取得すると良いでしょう。なお、後述する介護休業給付金は、介護休暇を取得した際には支給されません。

4.休みが長引く場合は「介護休業」の取得を

ご家族の介護を目的として長期的な休みが必要な場合は、介護休業のほうが適しています。なぜなら、介護休暇よりも長期間休むことが可能だからです。

介護休業は、対象家族への直接的な介護だけでなく、介護をするための準備期間(要介護者と一緒に住むために引っ越しするなど)にも使え、休業中に給料が支払われない場合は介護休業給付金が支給されます。

以下、介護休暇と介護休業の違いを表にまとめました。

介護休暇 介護休業
目的 短期的な介護のため 2週間以上にわたる長期的な介護のため
対象家族の要介護状態および要介護認定 ケガや病気などで2週間以上の期間、常時介護が必要な状態
対象家族が要介護認定を受けていなくても取得できる
同左
期間 ・対象家族1人につき5日/年
・対象家族2人以上なら10日/年
※時間単位でも取得できる
対象家族1人につき93日
※3回まで分割して取得できる
給料・給付金 原則として発生しない 給料は発生しないが、申請すれば介護休業給付金が支給される(条件あり)

介護休業は年間93日まで取得可能

介護休業は対象家族1人につき3回まで、通算して93日/年を限度として取得できます。介護休業は介護休暇と違って長く仕事を休むことができるため、次のようなケースに適しています。

  • 対象家族の介護で中心的な役割を担うため仕事を長期間休まざるを得ない
  • 対象家族が介護施設へ入居するための調整、準備
  • 対象家族と同居するため引っ越し、移動、各種手続き
  • 看取り・終末期ケアに入り、最期を迎える時期が近付いている など

休業の取得は2週間前までに申請する

介護休業を取得するためには、原則として休業を開始する日の2週間前までに、書面で事業主に申し出なければなりません。ただし、会社によっては2週間未満でもOKとしている場合があります。

休業期間中に休業終了予定日を繰り下げたい場合は、終了予定日の2週間前までに事業主へ申し出なければなりません。ただし、この繰り下げは一度の休業につき1回に限られていますので注意してください。

なお、休業終了予定日の繰り上げに関する法令上の規定はありません。このような場合は労働者と事業主とでよく話し合って決めることになります。

5.介護休業を利用する場合は、介護休業給付金の申請も忘れずに

介護休業を利用する場合は、介護休業給付金の申請も忘れずにしておきましょう。介護休業給付金とは、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の給付金を受けられる制度で、雇用保険の被保険者で、かつ一定の要件を満たす方が対象となります。

以下、詳しく解説します。

介護休業給付金の支給対象

介護休業給付金の支給対象となるのは、次の条件をすべて満たした方です。

  • ご家族を介護するために休業した労働者
  • 雇用保険の一般被保険者
  • 介護休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月以上ある方。

介護休業を開始する時点で介護休業終了後に離職することを予定している方は、支給の対象となりません。なぜなら、同制度は労働者が家族などの介護を理由に退職するのを防止するとともに、休業後に職場へ復帰して仕事を継続することを狙いとしているからです。休業明けに離職する予定の労働者に支給するとなれば、同制度の目的・狙いと合致しないため、支給の対象とならないようになっています。

例えば、介護休業の93日間を取得し、休業が終了すると同時に会社を退職する予定だった場合、介護休業給付金は支給されません。

支給額

給付される金額は、原則として休業開始時賃金日額×支給日数です。ただし、介護休業中も勤務先から賃金・給料が支払われた場合は介護休業給付金の支給額が調整されます。

介護休業給付金の申請期限

介護休業給付金の支給申請は、介護休業終了日の翌日から2ヵ月を経過する日が属する月の末日までに行う必要があります。

※例:9月25日に介護休業が終了した場合、2ヵ月後である11月25日の属する月=11月の末日(11月30日)までに申請を行う。

支給申請手続きは事業主が公共職業安定所に対して行う必要があるため、休業が終了したらなるべく早めに勤務先の担当部署へ申請するようにしましょう。

6.具体的なケース(介護休暇と介護休業のどちらを選べば良いか)

ここでは、具体的なケースを2つご紹介し、介護休暇と介護休業のどちらが適しているのかを説明します。

同居する母親が体調を悪くしたAさん:介護休暇を取得

Aさんは55歳女性で、大手化粧品会社に契約社員として勤務(勤続15年)。同居する母親に認知症の初期症状が出始め、家庭内で介護をしながら仕事を続けています。

そんな中、母親が一時的に体調を悪くしたため、介護に時間を要するようになりました。今回は一時的な休暇で済むと考えたAさんは、事業主に対し、介護休暇申出書を使って休暇の取得を申し出て、3日間休むことができました。

休暇のあと、母親の体調は回復し、問題なく職場に復帰できました。Aさんは残り2日間休暇を取得できるので、万が一のときにはまたこれを利用しようと考えています。

別居の母親と同居する予定のBさん:介護休業を取得

Bさんは54歳男性で、都市部のスーパーマーケットに正社員として勤務。勤続年数は10年を超えます。これまで別居していた母親(地方に一人暮らし)が病気を機に要介護1の認定を受け、一人暮らしをするにはやや不安な状態となりました。これをきっかけに、Bさんは母親を自分の元へ呼び寄せ同居する決心をしました。

しかし、引っ越しなどの準備には多くの時間が必要で、仕事を休まなければならないため、介護休暇よりも長く休むことのできる介護休業を選びました。休業期間を1ヵ月と設定し、その事業主に対して申し出た結果、取得が認められ、以下の内容を進めることができました。

  • 母親の引っ越しの準備
  • これまでお世話になったケアマネジャーとの連絡調整
  • 新しく担当になるケアマネジャーとの顔合わせ
  • 今後利用する在宅介護サービスについての相談、調整
  • 自宅で母親が使う介護用ベッドの購入 など

介護休業が終了したあとに介護休業給付金をもらうことができるので、経済的にも安心です。母親にとっての新生活が順調にいくよう、今後も必要に応じて介護休業を取得する予定です。

7.短期的な介護は介護休暇、長期的に休みが必要な際は介護休業の利用を

ご家族がいつ、どのような理由で要介護状態になるかはわかりません。仕事と介護の両立を目指す介護休暇・介護休業をスムーズに取得できるよう、あらかじめこの制度を理解しておきましょう。

また、日頃からご家族の介護の問題について、できる範囲で良いので上司や会社に相談し、自分の状況を知らせておけば、休暇・休業の取得がスムーズにいくかもしれません。

一昔前までは、この制度を知らない、または知っていても取得しづらい環境や会社が多かったことは否定できません。しかし、現在は社会的な認識が広がり、また積極的な活用を促す企業も増えてきていることから、気軽に利用できる制度になってきました。

介護休暇・介護休業は、「家族の介護があっても仕事を続けたい」というニーズを叶えてくれる制度です。効果的に取得しつつ、介護保険サービスと組み合わせて活用し、仕事との両立を実現しましょう。

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監修・執筆

林 修造

現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

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