成年後見制度とは?手続きや留意点について紹介

介護を必要とする方が個人の尊厳を保持しながら、持てる能力に応じて自立した日常生活を送れるように制定された介護保険法。2000年に施行されたのち、時代にあわせ改正されていることをご存じでしょうか?

本記事では、介護保険法の改正が介護を受ける方にどのような変化をもたらすのか、詳しくご紹介します。

1. 成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症や知的・精神的障害などで判断能力が不十分な方の後見人などを決め、ご本人の代わりに、さまざまな手続きをおこなうための制度です。成年後見制度は、申請される方の判断能力に応じて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれます。

  • 法定後見制度
  • すでに判断能力が不十分な方の後見人などを選ぶ制度

  • 任意後見制度
  • 自分で判断ができるうちに、あらかじめ後見人などを選んでおく制度

成年後見制度図解

成年後見制度の利用者数

実際に利用した方の割合をみてみましょう。2020年時点の利用者合計数は、232,287人です。あらかじめ後見人を選定しておく「任意後見制度」よりも、ご本人の判断能力が不十分になってから申請する「法定後見制度」の利用が多いようです。

利用者数

2. 法定後見制度

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分な方の後見人などを家庭裁判所が選任する制度です。申し立てができるのは、ご本人や配偶者、四親等内の親族や市区町村長など。後見人・保佐人・補助人の3種類があり、どれが適用されるかはご本人の判断能力に応じて家庭裁判所が判断します。

後見 保佐 補助
対象となる方 普段から判断能力が欠けている方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
成年後見人等が同意または取り消すことができる行為 原則としてすべての法律行為 民法13条1項に記載のある行為(借金、相続の承認など)のほか、申し立てにより裁判所が定める行為 申立てにより裁判所が定める行為(民法13条1項に記載のある行為の一部)
成年後見人等が代理することができる行為 原則としてすべての法律行為 申立てにより裁判所が定める行為 申立てにより裁判所が定める行為

なお、成年後見人等が取り消すことができる行為には、日用品の購入などの日常生活に関わる行為は含まれません。また、ご本人の居住用不動産の処分について、成年後見人等が代理する場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。

3. 任意後見制度

任意後見制度は、ご本人の判断能力が十分なうちにあらかじめ任意後見人を選んでおく制度です。将来的にご本人の判断能力が低下しても、任意後見人を選んでおけばご本人の意思に沿った適切な保護や支援が可能となります。

4. 成年後見人ができること

まずは、法定後見制度、任意後見制度それぞれの違いを整理しましょう。

法定後見制度 任意後見制度
成年後見人の呼び方 法定後見人 任意後見人
申立てができる人 ・ご本人
・配偶者
・四親等内の親族
・市区町村長など
・ご本人
・配偶者
・四親等内の親族
・任意後見人となる人(任意後見受任者)
※ご本人の判断能力があるうちに結ぶ任意後見契約が必要です。
後見人に支払う報酬 裁判所が決めた額 契約で決めた金額

※後見人に支払う報酬について
東京家庭裁判所が公表した「成年後見人等の報酬額のめやす」では月2万円前後が平均的な目安です。

実際に後見人に任せられる内容をみていきましょう。

本人名義の預貯金の管理 できる
不動産の管理 できる
保険金の受け取り できる
相続の手続き できる
病院や施設の手続き できる
身の回りの世話・介護 できない
株の運用 できない

このように、成年後見人はご本人の財産に関する法律行為などを代理できます。法律に関係のない身の回りの世話などは含まれていない点が特徴です。

5. 成年後見制度利用の最新データまとめ

最高裁判所が公開している2020年の最新データをもとに、申立ての動機や件数、ご本人の年齢や性別についてまとめました。

申立ての動機

申立て件数の内訳は、ご本人の判断能力が不十分になってから申請する「法定後見制度」の利用が9割以上です。9割の申立てのうち、開始原因は、ご本人の認知症がきっかけになるケースが64%を超えることがわかっています。

申立ての動機は「預貯金の管理」「ご本人の保護」などの目的が多いようです。

申立ての動機別件数・割合
申立ての動機別件数・割合

申立人の割合

実際に申立てをおこなったのは、市区町村長が最も多く23.9%でした。
※法定後見制度・任意後見制度あわせた集計データです。

申立人の割合

ご本人の男女別・年齢別

次にご本人の年齢です。女性は平均寿命が長いため80代以上の割合が男性に比べるとやや高い傾向でした。男女で共通し70歳以上であるケースが多いようです。

男性
ご本人男性

女性
ご本人女性

6. 手続きの流れと費用

実際に、成年後見制度を利用するためには、どのような手続きをおこなうのでしょうか。

法定後見制度の場合

ご本人の住所地にある家庭裁判所に審判等を申し立てます。申し立てから後見人が決定するまでの期間は事案によって異なりますが、多くの場合で4ヵ月程度。鑑定手続きや後見人の候補となっている方の適正調査、ご本人の陳述聴取などに時間を要します。

任意後見人制度の場合

公証役場で任意後見契約を結ぶのが原則です。任意後見人制度では、ご本人の意思を確認し、契約の内容が法律に沿ったものになっているか公証人が確認し、契約に進みます。

申請に必要な費用

それぞれの制度に必要な費用をまとめました。

法定後見制度 任意後見制度
申立手数料 800円 800円
登記手数料 2,600円 1,400円
公正証書作成の基本手数料 × 11,000円
公正証書の登記託嘱手数料 × 1,400円
登記所に納付する印紙代 × 2,600円
その他 連絡用郵便代
鑑定料
連絡用郵便代
証書代

※2021年4月時点

※申し立てには、戸籍謄本、登記事項証明書、診断書などの発効に別途費用が必要となります。
※補助及び任意後見については、鑑定を要しないものとされ、医師の診断書で足りるとされています。

なお、こちらは申請に必要な費用です。後見人への報酬は別途発生します。東京家庭裁判所が公表した「成年後見人等の報酬額のめやす」では、月2万円前後が平均的な目安です。

7. 成年後見制度の利用促進ポータルサイトがオープン

認知症や障害によって判断能力に難がある方にとって有益な成年後見制度ですが、制度自体があまり認知されていないことは課題です。そこで、2021年2月26日 厚生労働省は成年後見制度利用促進のためにポータルサイトをオープンしました。

ポータルサイトでは、定期的に「成年後見制度利用促進ニュースレター」が発行されており、成年後見制度を利用された方の動画インタビューなどを公開しています。ぜひ参考にしてみてください。

成年後見制度利用促進のご案内│厚生労働省

8. 成年後見登記制度とは

成年後見登記制度とは、東京法務局の後見登録課が管理するシステムに、成年後見人の権限や、任意後見契約の中身を登記する制度です。登記事項などが記載されている証明書の発行ができます。

登記が必要なケース

登記は、後見開始の審判がおこなわれたときや、任意後見契約の公正証書が作成されたときなどに必要です。登記は、家庭裁判所または公証人の嘱託でおこなわれますが、登記後に内容の変更が発生した場合や、後見が終了した場合は、ご本人や親族などがおこないます。

申請方法

登記をおこなっている東京法務局の後見登録課では、全国の登記事務を取り扱っています。(各地にある法務局・地方法務局戸籍課)

登記事項の証明書を請求できるのは、ご本人や配偶者、四親等内の親族成年後見人の方などです。

申請方法について詳しくはこちら「東京法務局:後見登録課 登記の申請

9. 日常生活自立支援事業とは

成年後見制度に似たものとして、日常生活自立支援事業があります。
日常生活自立支援事業とは、認知症の高齢者や知的・精神障害をもつ方など、判断能力が十分にない方でも、自立した生活ができるよう援助する事業です。主に下記のような支援が可能です。

  • 福祉サービスや苦情解決制度の利用の援助
  • 住居の賃借や住民票の届け出などの手続き
  • 日常的な金銭の管理

日常生活自立支援事業の窓口は、市区町村の社会福祉協議会などです。
サービスの利用には、参考金額として訪問1回につき平均1,200円の利用料が発生します。

日常生活自立支援事業について詳しくはこちら 厚生労働省「日常生活自立支援事業

成年後見制度との違い

成年後見制度は法務省が管轄する民法に定められた制度です。 これに対し、日常生活自立支援事業は、厚生労働省が管轄する社会福祉法で定められた事業です。

その他、2つの制度には以下のような違いがあります。

成年後見制度 日常生活自立支援事業
管轄 法務省 厚生労働省
法律 民法ほか 社会福祉法
申請 申立人が費用を負担 無料
目的 財産管理や病院の入退院、福祉施設への入退所などや身上監護(生活全般の支援)に関する契約等の法律行為の援助 本人との契約に基づく、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭等の管理などの日常生活支援

なお、支援が必要と判断された場合は、どちらの制度も併用できる場合があります。

10. まとめ

親や兄弟だけでなく、自分自身の今後を考えても、あらかじめ成年後見制度を理解しておくと安心ですよね。いつなにがあっても慌てず対応できる知識を備えておきましょう。
成年後見制度は、現時点で判断能力に支障がある方にも、将来判断能力に支障が出たときに備えたい方にも、頼りになる制度です。厚生労働省のポータルサイトは動画やイラストなどで成年後見制度についてわかりやすく解説しています。直接、お問い合わせもできるので活用していきましょう。

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