ホーム長の経歴書⑭高津編～喜びの共有
2021年10月3日
M様という男性のご入居者は身体が大きいのです。臥床したまま大便を排泄してしまうと、非常に汚れます。体全体が拘縮しているので便座に座っていただき、排泄を行うことはとても難しいです。私的には上記の理由から、便座に座っていただく方が汚れずに済むので、何とかして便座に座って排泄していただくことを心掛けていました。しかし、M様は身体も大きいし、体の拘縮もも重いですし、その時の調子のよっては1人で移乗介助が難しい時もあります。ある日もそのような場面でした。本人も若干不機嫌でなかなか、こちらに身をゆだねてくれません。しかし、何回かの経験で排便されるタイミングをつかんでいたので、早く便座に座らせたいと私も焦っています。「リハパンの中で排便してしまわないうちに」と。
M様の居室から廊下に出て、同じフロアで勤務していたN君という20代の若いスタッフに私は声をかけます。「N君、ごめん、Mさんの移乗解除手伝ってくれない?Mさんに便座に座って(排便)してもらいたいんだよ」
彼は「ちっ!」と舌打ちをして、こちらにのっしのっしっと歩いてきます。
その舌打ちが聞こえて、『お前、なんだよ、その態度は』と心中で思い、こちらもにらみつけるような顔つきになってしまいます。しかし、M様の排泄介助について特段取り決めがあったわけではないので、N君が、『面倒くせえな』みたいな感じになるのも当然でしょう・・・ただ、それでも便座に座って排便してほしかったので、「ごめんごめん」といって手伝ってもらいます。私とN君に険悪な緊張が漂うなか、二人でMさんを便座に移乗しました。
M様が便座に座った直後に、私の読みどおり、排便がありました。してやったり、間に合ったと思いました。
ひとしきり排便が出きったところで、M様が満面の笑みで、
「おお、スッキリした～」
と発言されました。認知症があり、自分から言葉を発することないM様が、本当にすっきりとした顔で発言したことに、私とN君は大笑いしてしまいました。
「Mさん、ごめんね。(排便)しているときに・・・そんなスッキリした顔で笑われるから。」私たちはそう言いながら、笑いが止まりません。Mさんもまだ笑顔です。
ほんの少し前までの私とN君の間に漂った険悪な緊張感は、どこへ行ってしまったのでしょう。Mさんのスッキリした笑顔を共有した瞬間に、私たちは同志になったのです。
それからというもの、私とN君が同じフロアで勤務するときは、N君の方から「井上さーん、そろそろMさん、便座に座ってもらいましょうか!」と誘ってくれるようになりました。「OK、今行くよ」と私も答えます。
ちまたには様々なチームワークの理論がありますが、そんな理論は要らないと思ってしまいました。喜びを共有する、それが一番のチームワークの成り立ちに大切であることを、ご入居者を通して学びました。
つづく・・・・まだまだ高津編 次回～転機
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