ホーム長の経歴書⑫高津編~神対応
2021年9月19日
(夜勤中の様子 イメージ図 ネットより加工転載)
K様という認知症状があり、かつ歩行不安定な女性の方がご入居されました。転倒骨折して入院後、自宅に戻って生活することは困難であるという判断のもと、ご入居された様です。移動介助は車いすです。しかし、認知症状があり、自分の身体状態を理解できていない為、自力で歩行してしまいます。その姿は円背で斜めに傾いていて、すぐにでも転んでしまいそうなので、要注意の方でした。
私が夜勤に入った時、その日はなぜだかKさまに落ち着きがありませんでした。「私、学校に行かなきゃ」と繰り返し訴えます。フロアのラウンジで見守りしているときは、「もう夜だから、学校は明日にしましょう」とか「夏休みだから学校はやってませんよ」とか言って応対します。その時は「じゃあ明日にするわ」とか「仕方がないわね」と理解を示す返事をされます。しかし、しばらくすると「学校にいかなきゃ」と言い始めます。
困ったことに、私が他のご入居者の介助に入っているうちに、見守りしていたラウンジの椅子から自分で立ち上がって、歩き始めてしまうのです。さらに、出入り口を探しているのか、次々に他のご入居者の居室のドアを開けていきます。その姿を見つけて、「Kさん、どうしたいんですか」と尋ねると、「学校に行くにはどこから出ればいいの」と。「Kさん、夜だから学校は朝になってからで・・・」とラウンジに引き戻します。
何回か眠そうな様子になった時に、居室のベッドへの臥床を促しましたが、しばらくすると、その歩行不安定な姿で、居室から歩いてラウンジまで出てきてしまいます。ラウンジで見守りしている間も 「学校に行かなきゃ」 ⇒ 学校はやってないです ⇒ 「じゃあ明日するわ」といったやりとりを繰り返します。そして、他のご入居者の介助にはいっている間に歩き始めている・・・このやりとりを朝までずっと繰り返し対応していて、さすがにイライラしてしまいました。
7時入りの早番スタッフが来る頃には、「もういい加減に大人しくしていてよ!」とKさまに言ってしまいました。
Kさまに「なんであんたに怒られなきゃいけないのよ!」とやり返される始末・・・。
なんとも後味の悪い勤務でした・・・夜勤明けて、イライラしてしまったこと、そして「大人しくしててよ」と放言してしまったこと・・・本当に反省しました。
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この日(夜勤明け)の夜にホームの飲み会があり、それに参加した私は、その会の中で、副ホーム長のNさんに前日の夜勤でのKさまとのやりとりを話しました。
「Nさん、Kさまのあのような状態の時、なんかいい方法はないですかねえ・・・」と尋ねました。するとNさんはケタケタ笑いながら、
「あら~、そんなに学校に行きたかったんなら、学校に行かせてあげればよかったのに~ o(>▽▽<)o キャハハ」
・・・・この人、何言ってんだ? どこの学校に行かせるの? そもそも真夜中だし 1人で外出もできないだろ・・・・わけわからん。介護職の経験は豊富かもしれんが、天然キャラのNさんに相談した自分がアホだったわ・・・そう思い、そこで話を終わらせてしまいました。
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数日後、自分が遅番でKさまがいるフロアで勤務していました。その日の夜勤者が体調不良で欠勤。Nさんが急遽夜勤シフトに入りました。この日もKさまは「学校に行かなきゃ」という言動を繰り返し、ある意味、絶好調です。Nさんにも訴えています。するとNさんは切り返します。
Nさん:「Kさん、学校に行くのはいいんだけど・・・宿題終わってる?」
K様:「ああ、私、宿題やってなかったわ・・・。」
Nさん:「あら~宿題終わっていないのに、学校行ったら先生に怒られちゃうんじゃない?」
K様:「そうよね・・どうしましょう・・・。」
Nさん:「Kさん、今日はずる休みして、宿題片付けてしまいましょうよ。ね! 学校には私が電話しておくから。体調が悪いからお休みさせてください、って。」
K様:「ああ、そうね。それがいいわね。」
するとNさんはレクリエーションで使う『おとなのドリル』をKさまの目の前に数冊積んで、「さあ、宿題片付けちゃいましょう」とKさんにドリルさせ始めます。
(宿題に追われるイメージ図 ネットより転載)
しばらくしてKさんは、ドリル帳に鉛筆をたてたまま、小刻みに頭をコックリコックリ揺らし始めました。
Nさんは、「Kさん、寝ましょうね~」と声をかけて、居室のベッドに誘導して、あれよあれよと就寝してしまいました。
鮮やか・・・・・自分の作業をしながら、このNさんのKさまへの対応を見ていた私は本当に感心してしまいました。
私:「Nさん、すごいですね・・・・」
Nさん:「そうかしら~ o(>▽▽<)o キャハハ」・・・あくまでも天然キャラ ┐(’~`;)┌
しかし、~学校に行かせてあげれば~、と言う言葉の意味が分かりました。
Kさまの学校に行きたい気持ちを自分は全く受け入れずに応対していたわけです。
Nさんは学校に行きたい気持ちを一旦受け止めたうえで対応していたのです。
自分自身のその後のご入居者様の対応に影響を与えたNさんの神対応でした。
私は、ホーム長になった後、新入社員へのオリエンテーションでいつもこのエピソードを話します。それは、ご入居者の気持ちを受け止めることができる社員になってほしいから。
つづく・・・まだまだ高津編 次回 根競べの巻
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