ホーム長の経歴書㉛大宮編~帰宅願望
2022年2月6日
「おらぁ、今日家に帰れる?」
SM様は毎日、群馬弁で訴えていた。ホームに入居されてからすでに3年以上経過していた方です。そのころから在籍していたスタッフによると、入居以前は長女と暮らしていたが認知症状が進んだSM様への介護疲れから長女はノイローゼになってしまったそうです。そこで大宮に住んでいた三女が、このホームへの入居を勧めたとのことでした。
SM様は入居当初から「家へ帰してくれ」「いつ家に帰れる?」と訴えていたようです。入居して間もないころ、SM様のこのような訴えが強い為、一時、入居前の自宅に帰宅をしたことがあったようです。しかし、結局帰宅先でも「いつ家に帰るんだ」と訴えたとのことでした。このエピソードはベテランスタッフたちには広く共有されており、そのこともあってか、スタッフ間ではSM様の「家に帰りたい」発言は、ある種の口癖になっているとの認識が支配していた。私自身も、寂しさを紛らわし、周りの気を自分に引かせるための口癖なのかと感じることがありました。ですから、毎日のように「おらぁ、今日家に帰れる?」というSM様に私を含めスタッフみな、「明日帰るからね」「今日はもう遅い時間だから、ここに泊っていって」そういうのが決まり文句になっていました。
ある時、私が事務所で提出物の作成に追われているときに、ワナワナと震えながら「家に帰してくれぇ」と泣きながら現れたときに、私は「明日ね、明日」と淡々と応じて、SM様を居室に誘導したことがありました。
「いけないな・・・」
いくら提出物に追われているとはいえ、あとから恥ずかしくなりました。
そう感じたときから、スタッフたちがSM様の「帰りたい」という訴えに、「明日ね、明日」と対応していることになんか気持ちが悪くなってしまったのです。
スタッフたちも皆、SM様が穏やかにホームで過ごしてほしいと思っていたでしょうが、そういった軽い対応をしている光景が当たり前になってしまっていました。
私はSM様の対応を通して、帰宅願望のある方に対して、その場を収めるための「明日ね」という発言には注意するようになりました。だって、明日帰れないのだから・・・。
「明日ね」という言葉は、その場をやり過ごしたりするために、おざなりに嘘をつくことではないか~そう思うと、気持ちが悪くなりました。
ケースバイケースでしょうが、多少話を盛ったとしても事実に近いことを話すべきでしょうし、繰り返し同じ理由をストレートで伝え、その時の様々な環境に合わせて「なぜホームで生活をしているのか」というを変化球で伝えるべきと考えるようになりました。
相手に認知症状があるからこそ。
SM様が帰りたかった家は別にあったのではないかな?、とも思いましたが、それよりもホームの居心地が悪いのかな・・・そんなふうに自虐的に反省させられました。
居心地が悪いから、家に帰りたい、と思うのだろうな・・・SM様にとっての居心地の良さに、私たちはアプローチできぬままに、突然、SM様はお亡くなりになりました。
SM様の心肺停止状態を最初に発見した女性ケアスタッフのKが、後日SM様について語った言葉は私の心に今も引っかかっています。
「SMさんはここ(ホーム)にきて、本当に幸せだったのだろうか・・・」
つづく・・・・大宮編はまだまだ続きます
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