ホーム長の経歴書㉕大宮編～後回しのツケ
2021年12月19日
IK様という認知症の診断を受けている男性のご入居者様がいました。意思疎通が難しいですが、平穏時は愛嬌のある方です。しかし、排泄への介入が難しく、トイレ以外での放尿が多く、弄便も度々ありました。意思疎通が難しいことで介助に入ろうとしたスタッフに暴力をふるうこともありました。
実は副ホーム長として赴任時にスタッフにヒアリングした際もIK様の対応に苦慮しているという声は拾っていました。しかし、Mホーム長の突然の退職、異物混入事件などでホーム長に就任したばかりにいろいろあったことで、IK様への対応は後回しになっていました。
ある時、SN様というIK様と同じフロアの女性のご入居者から「IKさんのお部屋の尿臭が酷い」と苦情を受けました。確かに・・・気づいてはいましたが、いつの間にか慣れてしまっていました。IK様は自室のそこら中に放尿をしており、そこから異臭が発生し、その臭いは廊下まで漂っていました。しかも、よくよく考えると私自身が赴任したころに比べて、臭いは強くなっていました。またSN様はIK様が廊下で放尿している現場も見ており、「不衛生だから何とかしてほしい」と訴えます。
いろいろなことに目を奪われて、IK様の放尿を放置していたことに改めて反省しました。
IK様は特に夜間就寝中に尿意を感じて目が覚めると、トイレではなく居室の角にそのまま放尿して、再び自分で臥床することを繰り返していました。床はカーペットのため、拭いても拭き取れない状態でした。
私は出勤した際は、午前中に放尿したと思われるところのタイルカーペットを何か所か外して、水洗いして、乾かし、夜までにカーペットを貼り戻す作業が日課となりました。一ケ月ぐらい続けたでしょうか・・・・しかし、一向に臭いは解消されません。私は床がカーペットである以上、尿臭を消すというのは無理だろうと考えました。本人の夜間の排尿をコントロールすると言ってもすぐに効果があるかどうかわかりませんし、その方法は見出せません。放尿しないようにトイレ誘導をどのように行うかを考えるのと、尿臭が抑えられる方法や、放尿してもすぐに清掃ができるようにとタイルカーペットをフローリングに変えられないかと考えました。
居室の床のカーペットをフローリングにすれば、清掃も簡単になるだろうと。業者に見積もりをいただくと約40万円の費用がかかるとのことでした。身元引受人の息子様に恐る恐る相談すると、フローリングへの回収費用は自分が払うと申し出てくれました。それをきっかけに息子様からIK様の話をいろいろ聞く機会が増えました。
IK様はかつて某保険会社の代表取締役であったことを聞きました。認知症状が出会始めたころに、すでに引退している身であるのに「何処どこの営業所に行ってくる」と自宅から出たあとに迷子になり、警察にお世話になることが増えたのだそうです。
時折見せる凛とした風格や愛嬌のある笑顔はやり手の営業マンであっただろうと想像させられました。
息子様はIK様の認知症状が現れてからの変わりように戸惑っていました。IK様は息子様に会っても、自分の息子であると認識した発言は一切なく、むしろかつての部下に接しているような態度を示したりしました。
親族の困惑を思うと本当に切なくなります。息子様はホームに様々なご迷惑がかかっているだろうと、心配されていました。私はホームの中で何とか見守れている、と息子様に少しでも安心させるしかありませんでした。
しかし、実際はなかなか大変でした。意思の疎通がうまくいかないことでのスタッフへの暴力行為、ホーム内のあちこちで放尿してしまう、弄便してしまう・・・
どうしてこの方はこのような行動をとるのか・・・・深く考えさせられました。
残念なことに、一部のケアスタッフにはIK様の介助に入りたくないと明言する者もいました。でも、男性ケアスタッフのMiやOらは「こうすれば拒否なく、介助できる」と前向きな意見を発していてくれました。私は彼らの前向きな言動に自信を持ち、IK様が落ち着いてホームで生活できるようになると信じていました。
しかし、その見通しは甘かったです。
つづく・・・・次回もまだまだ大宮編
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